美術新人賞デビュー2018 審査総評&全入選作26点、一挙掲載!
【國司華子 選考評】
デビュー展の審査に携わりはや3回目となる。その年その年に特色があると感じてきた。今年は何と言っても応募点数が随分増えたように思う。さらに多様性も増すとなると、審査はなかなか困難である。例年より審査の行方が見えづらく、今までに一番票が割れたのではないだろうか。 グランプリ、大島利佳《高鳴り》は、アクリルとインク滲みの鮮やかな発色と、冷静な人物表現の対比が印象的。 準グランプリは2点とも小作品ながら受賞。三村梓《ひるね》は、一見ほのぼのとしているが、何とも言い難い主張が漂う。フォルムの妙なのか、2匹の関係性なのか、楽しい謎だ。 もう一人の準グランプリ、山田さやか《いつか》は、鉛筆をベースとし、はっきりと黒の深さを滲み出させた。 奨励賞、檜垣春帆《My clothing》は、のびやかで少々難解な造形がじわじわと記憶に入り込む。 その他、久保尚子《風花》は、一見油彩らしからぬモチーフとその空気感に騙されるのがかえって新鮮。確かな表現力で揺れをも描く。 T-Jun《ハンバーガー》は、写実の中に独特な質感があり、取り囲む空気がどこか現実ではない「絵の中」を感じさせた。大きな作品も観てみたい。 服部由空《翠雨》、丁寧で優しい広がりが心地よい。この表現を広げていってもおもしろいのでは。 三好温人《時を待つ》、考えられた幾つかの要素とそれに取り組む姿勢が、そのまま画面に存在。・・・・・・と、どの作品からも声がし、こちらもすといった繰り返しの時間が審査であった。3年間どうもありがとう! (日本画家) (洋画家)
デビュー展の審査に携わりはや3回目となる。その年その年に特色があると感じてきた。今年は何と言っても応募点数が随分増えたように思う。さらに多様性も増すとなると、審査はなかなか困難である。例年より審査の行方が見えづらく、今までに一番票が割れたのではないだろうか。 グランプリ、大島利佳《高鳴り》は、アクリルとインク滲みの鮮やかな発色と、冷静な人物表現の対比が印象的。 準グランプリは2点とも小作品ながら受賞。三村梓《ひるね》は、一見ほのぼのとしているが、何とも言い難い主張が漂う。フォルムの妙なのか、2匹の関係性なのか、楽しい謎だ。 もう一人の準グランプリ、山田さやか《いつか》は、鉛筆をベースとし、はっきりと黒の深さを滲み出させた。 奨励賞、檜垣春帆《My clothing》は、のびやかで少々難解な造形がじわじわと記憶に入り込む。 その他、久保尚子《風花》は、一見油彩らしからぬモチーフとその空気感に騙されるのがかえって新鮮。確かな表現力で揺れをも描く。 T-Jun《ハンバーガー》は、写実の中に独特な質感があり、取り囲む空気がどこか現実ではない「絵の中」を感じさせた。大きな作品も観てみたい。 服部由空《翠雨》、丁寧で優しい広がりが心地よい。この表現を広げていってもおもしろいのでは。 三好温人《時を待つ》、考えられた幾つかの要素とそれに取り組む姿勢が、そのまま画面に存在。・・・・・・と、どの作品からも声がし、こちらもすといった繰り返しの時間が審査であった。3年間どうもありがとう! (日本画家) (洋画家)
【石黒賢一郎 選考評】
絵画に求められるものは、「表現」と「その表現のための技術」である。どちらが欠けても作品としては成立しない。今回は双方を兼ね備えた作品が多数あり、受賞はとても狭き門となった。 グランプリ・大島利佳さんの作品は、色彩、線、フォルム等のエレメントによる装飾性とフラットな色面構成的な表現によって、二次元性の強い画面となっていた。その表現が現代性とデザイン性を併せ持ち、非常に洗練された表現となっている。 準グランプリ・三村梓さんは、ブルーが印象的であり、不思議かつ神秘的であった。現実の形姿に立脚しているが、画面はデフォルメによって単純化され、それと同時に圧倒的な存在感を放ち、現実とは異なるリアリティを獲得している。表現を通じてモチーフが単純化されることで本質が際立っているように感じられた。同・山田さやかさんは、デッサン力も高く、白黒に限定された独自の美しい世界観が印象的であった。繊細な仕事で完成度が高い点が評価できるが、支持体や素材の幅をより広げていくことで今後さらに表現の幅を増やしていってほしいと感じる。 奨励賞・檜垣春帆さんは、流れるような筆致とデフォルメによって洗練された画面を創りだしていた。どこかブラックユーモアが潜んでいるような表現に惹かれた。表現と情感が切り離されず、そこで巧みに昇華されている点が評価できた。同・比留間智香さんは最後まで意見が分かれたが、独自の世界観を構築している点に今後の可能性を感じた。表現のための技術をより高めていってもらいたい。 三年に渡る審査担当も今回で終了となる。デビューの名を冠するこのコンクールが、若い作家たちの一つの目標であり続けることを切に願う。審査に携われたことは、とても光栄であった。 (洋画家)
絵画に求められるものは、「表現」と「その表現のための技術」である。どちらが欠けても作品としては成立しない。今回は双方を兼ね備えた作品が多数あり、受賞はとても狭き門となった。 グランプリ・大島利佳さんの作品は、色彩、線、フォルム等のエレメントによる装飾性とフラットな色面構成的な表現によって、二次元性の強い画面となっていた。その表現が現代性とデザイン性を併せ持ち、非常に洗練された表現となっている。 準グランプリ・三村梓さんは、ブルーが印象的であり、不思議かつ神秘的であった。現実の形姿に立脚しているが、画面はデフォルメによって単純化され、それと同時に圧倒的な存在感を放ち、現実とは異なるリアリティを獲得している。表現を通じてモチーフが単純化されることで本質が際立っているように感じられた。同・山田さやかさんは、デッサン力も高く、白黒に限定された独自の美しい世界観が印象的であった。繊細な仕事で完成度が高い点が評価できるが、支持体や素材の幅をより広げていくことで今後さらに表現の幅を増やしていってほしいと感じる。 奨励賞・檜垣春帆さんは、流れるような筆致とデフォルメによって洗練された画面を創りだしていた。どこかブラックユーモアが潜んでいるような表現に惹かれた。表現と情感が切り離されず、そこで巧みに昇華されている点が評価できた。同・比留間智香さんは最後まで意見が分かれたが、独自の世界観を構築している点に今後の可能性を感じた。表現のための技術をより高めていってもらいたい。 三年に渡る審査担当も今回で終了となる。デビューの名を冠するこのコンクールが、若い作家たちの一つの目標であり続けることを切に願う。審査に携われたことは、とても光栄であった。 (洋画家)
【福井江太郎 選考評】
今年は、昨年に比べ 1・5倍応募者数が増えたと聞いた。 編集部が全国の美術大学や専門学校で説明会を開催したため、もっとも応募も多かったようだ。 今年の大賞は「華」がある。「華」とは、サイズが大きいとか、色が派手とか、そういうことではない。作品の奥底にある芯の強さであり、作品を見た後も、記憶に残る絵であるということである。今回の大賞はまさにその「華」を感じた。大島利佳《高鳴り》は、その堂々とした画格が満場一致の結果となった。準グランプリの山田さやか《いつか》は、作品は大きなサイズではない。なのに、なぜ人の眼をひくのか。それは、作品から醸し出す表現者の強い想い。目に見えないにおいや空気感をよく表現している。もう一人の準グランプリ三村梓《ひるね》は、なんともおだやかで暖かな雰囲気を感じる。何でもないことを何でもなく表現することこそ難しい。それを軽々と超えている姿は清々しい。 奨励賞の比留間智香《夏を解かしてパンを噛む》は、審査中、一番目を引いた。見るものに「なぜ?」と思わせる強い主張がある。本人にお会いしてみたい。デ ビュー展ならではの奨励賞だ。もう一方の奨励賞、檜垣春帆《My clothing》は、顔が見えない少女(?)が左手でどくろを持つ、姿が描かれている。一見、自分の頭蓋骨?とも思わせる。そのストーリー性がとてもユニークで絵画的に感じる。見るものを違う世界に引き込む強い画面が好感を持つ。 今回の応募作品は、作風や技法、モチーフなどが画一的でない、デビュー展ならではの作品が集まったと思う。門戸は広い方がよい。言葉の壁が超えられる絵画芸術なのだから、日本人以外からも応募があったらなおよい。3年間楽しい審査でした。みなさん、どうもありがとうございました。(日本画家)
入選作品展
会期 3月12日(月)~17日(土) AM11:00~PM6:00
会場
〈第1会場〉フジヰ画廊 東京都中央区銀座2-8-5 銀座石川ビル 3F
グランプリ 大島利佳
奨励賞 檜垣春帆
井伊智美、上木原健二、木下みや、志帆、T-Jun、寺川成美、山田晋也、吉田朱里
〈第2会場〉ギャラリー和田 東京都中央区銀座1-8-8 三神ALビル1F
準グランプリ 三村梓
準グランプリ 山田さやか
奨励賞 比留間智香
潮田和也、刑部真由、北村友理、木下千春、久保尚子、髙田望、冨田真之介、服部由空、福島綾子、藤田吾翔、武道、三好温人、森聡今年は、昨年に比べ 1・5倍応募者数が増えたと聞いた。 編集部が全国の美術大学や専門学校で説明会を開催したため、もっとも応募も多かったようだ。 今年の大賞は「華」がある。「華」とは、サイズが大きいとか、色が派手とか、そういうことではない。作品の奥底にある芯の強さであり、作品を見た後も、記憶に残る絵であるということである。今回の大賞はまさにその「華」を感じた。大島利佳《高鳴り》は、その堂々とした画格が満場一致の結果となった。準グランプリの山田さやか《いつか》は、作品は大きなサイズではない。なのに、なぜ人の眼をひくのか。それは、作品から醸し出す表現者の強い想い。目に見えないにおいや空気感をよく表現している。もう一人の準グランプリ三村梓《ひるね》は、なんともおだやかで暖かな雰囲気を感じる。何でもないことを何でもなく表現することこそ難しい。それを軽々と超えている姿は清々しい。 奨励賞の比留間智香《夏を解かしてパンを噛む》は、審査中、一番目を引いた。見るものに「なぜ?」と思わせる強い主張がある。本人にお会いしてみたい。デ ビュー展ならではの奨励賞だ。もう一方の奨励賞、檜垣春帆《My clothing》は、顔が見えない少女(?)が左手でどくろを持つ、姿が描かれている。一見、自分の頭蓋骨?とも思わせる。そのストーリー性がとてもユニークで絵画的に感じる。見るものを違う世界に引き込む強い画面が好感を持つ。 今回の応募作品は、作風や技法、モチーフなどが画一的でない、デビュー展ならではの作品が集まったと思う。門戸は広い方がよい。言葉の壁が超えられる絵画芸術なのだから、日本人以外からも応募があったらなおよい。3年間楽しい審査でした。みなさん、どうもありがとうございました。(日本画家)