デビュー2013審査所感

本江立島対談

――デビュー展は本格的にプロ作家を目指す、若手の登竜門として、今回、スタートしました。審査員としてご参加いただき、どのような感想を持たれたかを今日はお話し頂ければと思います。まず、本江さんは色々なところでコンクールの審査をされていますが、今回のコンペを率直にどう見られましたか?

本江 これはあくまでも私の印象なのですが、かなり堅実なものが集まったという感じがします。堅実なものというのは銀座の画廊さんのところで、「じゃあ来週から少しあなたの個展をやってみましょうか」と考えたときに、わりとすっと入ってこられるような感じの人が多かったということです。その意味ではやはりレベルが高かったと思います。

立島 私も同感ですね。一次審査は編集部の方でやっていただいているので、すべての作品を把握しているわけではないのですけれど、ただ、審査会場で他のエントリーした方たちのポートフォリオをざっと見て、全体的にやはりまとまりがあって、オーソドックスな絵画表現が目立っていたかなという印象がありました。

本江 そうだね、だから、現代美術界の色々な最近の傾向の中で、ちょっと新しいとか前衛的だとか、そういうふうな観点からみると、全体として保守的ではあったと思います。ただね、その保守的であるということが悪いことじゃないんだってことを、改めて教えてくれるような結果だったんじゃないかな。

立島 そうそう、変なアートフェアに出ているみたいな作品がなかったのが、よかったと思う。なんか消費されるような感じがする作品がけっこうあるじゃないですか、最近のアートフェアって。だから、そういう作家が少なかったのが、私は今回のこのコンペのすごくよい部分だと思うんですよ。

本江 「デビュー展」って言っているでしょう、プロとしてデビューするという意識を持っている人を集めたいという主催者側の趣旨があったと思うんですけど、それに沿って、ちゃんと皆さん出してきたな、と思うんです。出品点数自体はそんなに多くはないけど、でもやはりプロ意識の高い人だけが集まった感じですよね。シェル美術賞などのように、1000点以上出てくるような若手の登竜門的なコンクールでもピンばかりではありません。キリの作品もけっこうあるんですよ。今回はキリがない。300点弱の作品すべては見てはいないけど、きっとそうだと思う。

立島 それに、審査員と編集部の側でも、議論していく中で、技法、表現をきっちりおさえている作家を選ぼうという方向性になりましたよね。
本江 ええ、結果としてとっても真面目なコンペになったんじゃないかと思います。真面目でいいなと思いますよ。瞬間的に惹きつけるものはないかもしれないけれど、みんな地力はあるよね。グランプリ作品だって、これ、たしかじわじわと残ってきたんだよね。

立島 そう! そうなんですよね。みんなで議論するプロセスを経て、作品がどんどんフォーカスされていくような審査だったじゃないですか。そういう流れができるというのは、審査員の視点ももちろんあるんでしょうが、出品作がその流れをつくっている部分っていうのがあったと思うんですよ。絵画表現を真正面から受け止めようとする、そういう類のコンペというのは、意外とあるようでなかったと思う。

本江 そうですね。基本ができていないと何も始まりませんよ。

立島 出版社でこういうことをやっているっていうのもあまり聞かないので、しっかり永く続けて、評判が定着して、作家がこぞって出品してみたいと思える、そんなコンペになると素敵ですよね。

――そう言って頂けるのは、主催側としても嬉しいかぎりです。それでは、ちょうど話題にも出たグランプリ作品、福田真規さんの『フーガ』についてはいかがでしょうか?

立島 技術的に突出していたということではないと思うのですが、まず、通常の写実表現の基本をしっかり押さえているということ。それから、モチーフとなっている窓とか光に対する作家自身の特別な思いみたいなものが伝わって好感がもてた。

本江 なるほど。それは読みが深い。

SONY DSC

立島 だから、最初ぱっと見たときは、普通の具象の流れの中にある作家かなと思ったんですけど、よく見ていくと、じわじわと味わい深いものが滲んでくるような印象を受けた。それがまさに可能性ですよね。他の先生方の印象もそれに近いと思いましたし、グランプリに相応しい作品だと思ったんです。

本江 今、立島さんが窓とか光に対して特別な思いがあるんじゃないかっておっしゃっていましたけど、たぶんそうなんだと思うのは、この絵の題名は『フーガ』でしょう? 絵を見ても題名の意味がわからないから、何か彼女なりの思い入れがあるんでしょうね。コメントを見ても、「フーガの様に鳴り止まない」でしょう? 絵をみる限りでは、ざわめきって感じはあまり、しないよね。

立島 うーん、窓の向こう側はざわざわしているのかもしれないけど、絵自体はすごく静かでしたよ。だからもしかしたら、逆説的な視点なのかもしれない。

本江 なかなか内面的な、良いリアリズムかなと。

立島 展示するときに作家のトークとかはないんですか。あれば、ぜひ、色々聞いてみたい。

本江 グランプリは妥当だけど、逆に準グランプリ作品の山本雄教さんの『rainbow rice』、これはまた斬新でしょう!

――この作品が準グランプリに選ばれたのは、ちょっと意外でもありました。米粒をお米の顔料で描いたそうなのですが、そういうところがそそったのでしょうか。

2_山本雄教s

本江 いや、見たときの印象だから、存在感があったんですよ。そういうものについて審査員が保守的な判断をまったくせずに自らの感覚に即した判断をしたわけですよ。

立島 作家側の審査員が結構推していましたよね。

本江 あのとき、私はこの審査団の実技の先生たちはなかなかのものだなと思いましたね。偏見がなくていいなと。もう一方の準グランプリの若佐慎一さんの『獅子図』は確か河嶋先生が随分推していましたね。

3_若佐慎一

立島 審査員の河嶋さんの作風とどこか似ていた。でも、河嶋さんのように洗練されているわけではなく、素朴な感じがこの作品の魅力なのではないですかね。ほかの作品を見てみたいと思ったのと、今後どんな展開をするか楽しみですね。

——賞候補となった3作品についてはどうでしょうか? こちらは最終的に奨励賞とさせていただきましたが。

本江 この山内大介さんの『陽光浴びる麦畑』はすごくいい風景画だと思うな。

立島 どちらかというと公募展っぽい感じの絵ですよね。だけど、とても誠実な絵だと思いました。いたずらに混色せずストレートな色使いが印象的。だから画面が濁らず綺麗。この作品も、きっちり押さえるところを押さえている作品かなと思いました。この作家が公募展に出品しているかどうかわかりませんが、こういう傾向の作家がちゃんと入るということはよいことじゃないでしょうか。

28_山内大介s

本江 そうですよ。堂々と入ったんだから。この水口かよこさんの『陽の射す場所』は木版なんですよね。これもなかなかいいよね。

16_水口かよこ

立島 まず、多田真理恵さんの『ゆるがない幸せ』は他の2作品とは、対照的でしょう。素材に関しても表現に関しても、個性的。山内さんは絵画性が強く全面に出ていると思うし、水口さんは端正な表現で、しかもバレンで摺った木版画のやわらかな味わいが特徴的でした。また多様な版画作品がバランスよく入賞したのもよいことだと思いますよね。

20_望月真理恵

――結果としてそうなりました。とはいえ、どちらかというと表舞台で評価されることが少なくなった版画が入ってくれたのはよかったと思います。

立島 それは本当にいいことだと思う。版画は絵画表現のなかでも、ともすると特別視される場合も少なからずあるでしょう。こういう場で純粋に絵画表現として審査され評価されるというのはとてもよいことだと僕は思う。あとは、美大卒じゃない人が結構入選しているのもよいと思うんですよ。

本江 結構多いですよね。

立島 美大を出ていない人って実はコンプレックスけっこう持っているんですよ。佐藤美術館は奨学金制度があって、さらに若い作家支援もしているので、毎日のように全国から問い合わせや相談がたくさん来るんです。「インターネットで見たんですけど、若い作家を応援しているって聞いたんですけど、絵を見てもらえませんか?」とかって。なかには中学生や高校生もいますよ。会って話を聞くとまず、「美大出ていないとダメなんじゃないか」という。

本江 実は美術界って学歴が関係のない、すごくフェアな世界なんですよね。そういう意味でも今回の入賞作品群はなかなかよかったんじゃないかな。コツコツと真面目にやっている学生はたくさんいて、大学の教員としては、そういう彼らにも恵まれてほしいわけです。でも、現状で、恵まれがちなのは、ちょっとその瞬間的に際立った仕事をするとか、あざといことをして評判を呼ぶとか、そういう方にライトが当たるんですよ。

立島 そうなんですよね。ちゃんと描いている人たちが不遇なのはよくないことですよ。

本江 職人芸的っていうと言いすぎかもしれないけど、とにかく自分の道をコツコツやっていこうとしている人って、公募展なんかでも、落とされちゃうしね。今回のグランプリの作品だって、専門的な目をもった審査員団が何回も何回も見ていって、丁寧に丁寧に見たから、これが残ったのであって、普通の公募展だったら第一回目で落っこちているかもしれないよね。瞬間的にぱっと見て、あ、普通の具象ね、ってパーっと過ぎちゃうかもしれない。

立島 その可能性はありますね。今、本江さんがおっしゃっていたみたいに、佐藤美術館の奨学制度も若手作家支援も、ちゃんと絵画表現を目指している方たちを、評価しようという姿勢でずっとやってきたので、このコンペは我々の活動とか僕個人の視点ともすごく合うものでした。だから、審査もすごく気持ちよくできましたね。他の審査員の方々とも価値観が共有できたので楽しかった。

本江 そうだね、いい人ばかりで私も楽しかったな。そこで私の個人的な希望としてはね、もし、次回も呼んで頂けるのなら、ぜひ一回目のファイル審査からやりたいですね、どうですかね。我々学芸側だけでやってもいいかもしれないし、もし作家の方も参加して頂けるのならばそれはもちろんその方が望ましいし、そこまでやらないと誠実じゃない気がしますので。

立島 そうですね。今日話したようなこのコンペの趣旨、姿勢を大切にして続けていけたら素晴らしいですね。

――ありがとうございました。今回のご意見、次回以降のデビュー展に反映させていこうと思います。

(月刊美術2013年3月号特集より転載)