えっちゃんの中国美大日記 第14回「永遠の理想郷を追い求めて ―謝東明インタビュー」

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今回は、中央美術学院の主催する謝東明個展の取材をきっかけに、謝東明さんから制作についての話をお聞きしました。謝東明さんは私が通っている中央美術学院の油絵科の主任教授であり、造形学院の副院長。素朴で農家の人々の力強い姿をテーマとして描いている画家です。

初の素描の展示

江上:今回の展覧会で私は初めて先生のデッサンを拝見したのですが、個人的には油絵とはまた印象が違ってとてもすきです。それと「望」というテーマの油絵もすきです。デッサンは前から描いていたのですか。

謝東明:デッサンは昔から描いてましたが、創作として考えることは少なく、習作練習として描いていました。でもこの3.4年、デッサンを作品として試みていて、特に2012から2013年に多く試してみました。それが今回の個展でも多く展示されてます。


図1 展示されたデッサン作品

謝東明の描く「笑」―理想郷

江上:ええ、先生の絵にはなにか素朴な表情が表れていて、このような表現をするのはゴッホ以外にいないのではないかなと感じます。

謝東明:私はいつも自然体で笑っている人物像をモデルに絵を描いていますが、それは今の中国には段々と失われているものですね。北京にいる今の人々はどこか緊張気味で、とても忙しくて彼ら自身も何に忙しんでいるのかわかっていない。北京の天気のように、彼らの表情が明るく心から笑っている人というのは少なくなってきています。かといって笑顔の人がいないかといえばそうではなく、北京郊外またはもっと遠い工業地帯ではないところでは、青空もあるし、そこの住人はまだ昔の時代に生きているかのように生活していてとても質素な生活のなかで笑って暮らしています。彼らの表情は現代の私たちにはないもので、とても考えさせられることです。それを記録するという意味でも私はずっと農民の笑っている顔を描いてきました。

江上:では先生の描いている「笑い」というのはとてもプラス的な笑顔ですね。中国の現代アートでは例えば方力均、チャイナポップのアーティストたちにも「笑い」をテーマにした絵はたくさんあります。彼らは反骨といいますか、笑顔がブラックユーモアのようでもあります。

謝東明:ええ、私の描いてるものは彼らと違います。彼らの描いているのは現代の時代を表していますが、私の絵は現代のもので現代を表すのではなくて、ある種の失ってしまったものを通して、例えば私の小さい頃の北京は建物も低くて、緑が多くて、鳥が多くいました。北京には当時、城壁もあって、北京の二環以外はなにもなかったし、改革のために授業はなく、みんな農村に「下放」といって農業をする義務があったのです。そこで私は農村に対しての記憶は小さい頃から残っていて、大学に入って絵を描くというときにふと農村での体験がとても魅力的に感じ、それを絵で表現しようと考えたのです。今の北京ほうがいいという人もいると思いますが、私は幼少時代の静かで空が青い北京が好きでした。

江上:先生の作品は先生の幼少期の体験から来ているものだったのですね。私もスケッチ旅行で、先日青海省の農村にいきましたが、そこの人々はみんな簡素で素朴で、生活すべてがとても「真実」のように感じられました。今考えると私たちにはないものを持っているなと感じました。

謝東明:当時北京には二環外はすべて農村で、今は六環まで拡大されていて、要は北京自体が私たちの世代と共に急激に発展していって、自分もこの都市と一緒に成長してきて、その過程をこの目で見てきました。日本の東山魁夷も日本の東京ではなく、農村を描いてますし、ゴッホも下町の農村をずっと描いてきましたよね。ミレーもそうですが、それらの作家は時代に反して描いていますね。

 

農民からヌードへ、見えてくるもの。

江上:農民への興味は中学卒業後に体験した2年間の農業経験、小さい頃の大自然の記憶がつながっているのですね。では先生の絵はすべてその場で写生ですか。最近新しいシリーズでヌードと森の作品がありますが、それは前作のものと比べて何か心境の変化、あるいは共通するものがありますか。

謝東明:近頃は写真も使っています。自分で撮影して、いろんな写真を組み合わせたり、森の中で踊るヌードのシリーズは特にそうですが、実際には再現して写生できないことが多いので。新作のシリーズは、自然に回帰したいヌードという人間の原始で美の象徴ともいえるもの、人類のうちの心の感じたものを描きたいと考えています。女性を描くのは西洋の絵でもそうですが、人類の審美の大事なパーツでもありますよね。そして女性の肌が男性より明るくて描きやすい、ルノワールも女性の肌をとっても美しく描いていて魅力的です。そのヌードを森の中に描くのは、自然と一体になる、羽ばたくような自由な心情を表現したいというのがあります。内心の自画像、自分が生活への感じたことを或る人の形を借りて表現しているので一枚一枚が自画像です。

江上:そうですね、先生の描いているヌードも農民もある符号であって、その意味はどこにおくかによっても意味合いが変化していますよね。発展途上で変化の速い今の中国には謝先生の作品は人々に新しいメッセージを投げかけてういるのではないでしょうか。これからの作品も期待しています、ありがとうございました。


図2 展覧会会場

謝東明作品2004-2014展覧会
会期:2014.5.31-6.30
会場:北京市朝陽区百子湾路平果社区北区22院街芸術区6-77


図3 記者と謝東明


図4 謝東明 中央美術学院にて

江上 越(Egami Etsu)
1994年千葉市生まれ。千葉県立千葉高校卒業後、2012年中国最難関の美術大学・中央美術学院の造型学院に入学。制作と研究の日々のかたわら、北京のアートスポットを散策する。ここでは北京のアート事情、美大での生活などをレポートしてもらう。