えっちゃんの中国美大日記 第25回「中国美術界の仕掛け人 第5弾:版画の未来を考える、王華祥」

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王華祥
1962年貴州生まれ 中国藝術研究院中国版画院副院長、中央美術学院版画家主任教授。新しい版画の技術発見や素描に関する著作本の出版など幅広い活躍をしている。今回は版画市場の現状と可能性を聞いた。

アカデミックと伝統
江上:先生は90年代に「将錯就錯」という本を出しましたね。それは反アカデミックで、反コンテンポラリーでした。では学校の教育の問題点はどこだと感じますか。

王華祥:アカデミックが単一ではいけませんね。美術史をみてもわかりますが、芸術の発展には複雑な探索が伴っていて、無限の可能性があるべきです。ソ連派の教育から一転してこんどは西洋の模倣で、第三者から見ると、古典的でありつつ現代性のある自分にあったものを見つけることができる教育を希望しています。だから私は2000年に「飛地芸術芳」という学校を作りました。

飛地芸術芳の外観 ここは美術館としても運営している

飛地芸術芳の外観 ここは美術館としても運営している

飛地芸術芳の生徒たちがデッサンを学ぶ場所

飛地芸術芳の生徒たちがデッサンを学ぶ場所

江上:それでいて先生がまだ中央美術学院で教鞭をとっているのはなぜですか?

王華祥:もちろん、中央美術学院にも伝統を重んじるよさがあるし芸術交流の土台もいい、書籍や情報の資源も豊富です。私も中央美術学院卒業生なので、本当にお世話になったという気持ちがあります。でも私が反伝統を提案したのは、伝統もいいけれど、それが唯一の方法になってはいけないということです。

王華祥の作品 「貴州人」1988年作 受賞作品

王華祥の作品 「貴州人」1988年作 受賞作品

中国版画の現状

江上:版画というのは中国で発明されて、とても伝統的ですよね。その伝統的なものを現代に生かす上で、教育上難しい点は多いのでは?

王華祥:私たちの方針は両方(伝統と現代アート)ともつかむことです。中央美術学院は写実の環境だし、写実は私の長所でもあります。

江上:版画はヨーロッパではすでに技術を学ぶためだけの工房になっています。中国の版画の現状はどうでしょう。

王華祥:やはり美大に集中しています。70年代に版画が発達して、日本の棟方志功、東山魁夷の作品、特に水印木刻は日本の影響が大きかった。その後、7,80年代に西洋のものが多く流入し、版画の発展は美大や芸術院だけにとどまり、民間はずっと6,70年代のままなのです。美大の環境ではコンセプトの更新がはやく、私は版画のレベルは油絵科よりも上だと思います。30年前の版画を今見ても新しいと感じるのは、形式の上から言っても成果が大きいですね。版画家から油絵家に転換した徐氷、方力君、劉偉、周春芽はみんな現代アートの場でも有名です。

アトリエ内風景

アトリエ内風景

江上:では版画の成果が高いのに、なぜ彼らは版画ではなく転換しなければいけなかったのでしょうか?

王華祥:これは中国の芸術市場からわかります。最初は写実から始まり、その後サザビースなどの大手のオークション会社が香港に入ってきて写実を取り扱ったことが大きかった。その後政治ポップの方力君たちがヨーロッパで認められて、2000年に高額で取引された。でも中国の市場はずっと写実でした。それが2004年に写実から離れて、アニメ世代やポップでセクシーななのが流行った原因というのは中国の資本が芸術投資に替わっていきます。そこで注目されたのがヨーロッパで認可されたポップのアーティストでした。
そのとき版画というのは独自の発展もしましたが、写実のカテゴリーに入らなかったので市場に入ることはありませんでした。

市場に組み込まれなかった版画のメリット
江上:やはり版画がコピーと考える人が多いからでしょうか?

王華祥:写実が一番受け入れやすくて、その後西洋が認めたものが評価されるようになります。版画はどちらでもないということなんですね。20年来の版画の辺縁化というのは現在の目でみると、2方面の結果があります。ひとつは版画がバブル経済の環境の影響を受けていないことで、それによって、独自のロジックの成長を保持できたことです。もうひとつは、版画の市場が小さいゆえに版画家は頭を使って考えるからいろんな分野に応用できること。私自身、装飾や室内デザインなどをしていました。でも考え方というか、ひとつの物事に対しての思考回路はやはり版画が役に立っています。

江上:なるほど、版画の構成力と、デザイン能力、計画性ですね、ひとつのミスをすると、すべての工程がやり直しになる版画の考え方は応用しやすそうです。

インターネットの時代に対応する版画
王華祥:だから版画家というのは自然と他の人に比べて応用能力が高い。今では版画と芸術市場が結合し始めている部分もありますよ。昨日「インターネットの生態」という討論会に参加したのですが、そこには趙力(前回インタビューした芸術管理の先生)とインターネットの専門家、798芸術区の画廊責任者、美術市場専門家と、これからの時代、芸術投資が芸術消費に変わると話しました。

江上:この2つはとても似ていますね。

王華祥:投資はお金を稼ぐのが目的で消費は鑑賞のためです。そうすれば消費は拡大するし、コレクションされる作品の幅も広くなる。インターネットがすべてを変えるのです。そして版画というのはそれに一番応用しやすい。原作だけど、油絵よりは安いし、いい作品は多くの人にコレクションしてもらえる。

江上:でも大衆の版画に対する価値観と審美観はすぐに変化するでしょうか。

王華祥:みんな群衆心理があるので、これは私たちからも動かなくてはいけません。

江上:なるほど最古の木版画が中国の敦煌にあるほど、版画の歴史は長いので、これからどうやって現代の社会と結合していくのか、楽しみです。

王華祥 1998年作「天使之一」

王華祥 1998年作「天使之一」

王華祥 2006年作 「路通知馬力」

王華祥 2006年作 「路通知馬力」

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江上 越(Egami Etsu)
1994年千葉市生まれ。千葉県立千葉高校卒業後、2012年中国最難関の美術大学・中央美術学院の造型学院に入学。制作と研究の日々のかたわら、北京のアートスポットを散策する。ここでは北京のアート事情、美大での生活などをレポートしてもらう。