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美術新人賞デビュー2019 審査総評&全入選作25点 一挙掲載!

本江邦夫 × 立島 惠 豊かな色彩とのびのびと自由に広がる風景 グランプリは野中美里 《いつまでも、あなたはいる》 ───美術新人賞デビュー2019には、203名の応募がありました。前回より若干の減少ですが第一目標の200名は超えるようになりました。 本江 よく話しかけられるようになりましたよ。「デビュー展に出してました」とかね。 立島 私もそういう機会が増えました。みんなに浸透している感はあると思います。 ───さて、そんなデビュー展も今年で7回目。今回から新たな作家審査員として諏訪敦、奥村美佳、瀧下和之の3氏に加わっていただきました。まず、全体の印象からお聞きします。 本江 デビュー展はそもそもベーシックだと思いますね。 立島 前よりも半具象みたいな作品が少ない。結構ガチに描いているという。それとまっとうな写実が少ないのは、審査員に諏訪先生がいるからでしょうか。逆に見る目が厳しくなるという思いがあるのかもしれません。あと美大系ではない人が入選するのもデビュー展の特徴といえるかもしれません。全体的に今まで以上に端正な絵が多かったという印象があります。

本江邦夫氏(左)と立島惠氏

───では、各受賞作について伺いたいと思います。まずは、グランプリの野中美里さん。 本江 審査では意見も割れなかったですし。グランプリ受賞作はやはりグランプリにふさわしい内容でした。 ───作品の手前に描かれているのはお風呂だそうです。 立島 なるほど、空間が外に広がっている、構想も面白いですね。タッチもそうですけど普通の風景ぽく見えて、かつ、全体の構図をよく見るとすごく自由な感じがする。 本江 感覚が瑞々しいですね。 立島 色も濁ってないし。 ───昔の印象派などの作風を少しずつ掬い取っている感じもあります。審査の早い段階でこれがグランプリかなという予感が皆さんにありました。 本江 確かに。木製パネルでしたね。その効果もあるのかな。申し分なし。 立島 最近の武蔵美の絵ってこういうふうな荒いタッチの作家が多いんだけれど、その中で受賞作は一番。絵具の使い方が綺麗。
野中美里《いつまでも、あなたはいる》 30P 油彩、木製パネル

野中美里《いつまでも、あなたはいる》 30P 油彩、木製パネル

───続いて準グランプリの2名です。まずは、青栁友也さんから。審査会場で本江先生が「明るいところで見よう」と言って、皆の印象が一変した作品でした。最初は皆さんスルーという感じでしたが。 本江 そうでした。最初あった場所をよく覚えています。明るいところで見たら印象が変わって全然見え方が変わった。どこかモランディを彷彿させる絵作りで、とにかく着実によく描いていて空間も捉えている。申し分ないと思います。 立島 光を当てるとパッと浮き出てくるってことは、いろんな絵具を重ねているんじゃないでしょうか。その辺りのテクニックがちゃんと分かっているのかも。一見地味なんだけれど、玄人好みがするような。 本江 私が救った絵です!(笑)

青栁友也《夜のラフランス》30F 油彩

───もう一人は八木恵子さん。 本江 真横の構図って面白いですね。あるようでない。 立島 そうですね。箔の使い方も面白いし。ドラマチックな構成もいい。最近、筑波大の日本画であまりいい人見てなかったんですけど、この作家はしっかり描けていると思います。これから期待できる。院展ぽくないけど、個性もある。

八木恵子《夜はしんとして》30F 和紙、銀箔、岩絵具、墨

───続いては奨励賞です。今年は3名が受賞しました。 立島 青木秀明さんは日展特選なんだね。しかもすでに会員! 僕はこの絵好きです。経歴もすごいし、もうベテランですね。大したもんです。絵が若い感じがしますね。あまり守りに入っていないところもいいです。小下図や大下図みたいなレイヤーを作ってる、ちょっと面白いかも。 本江 重厚ですね。 立島 もしかしたら、画家自身に「日展だけじゃない」という思いがあったのかもしれない。そういう意気込みを我々は全然知らずに審査するんだけれど、これが奨励賞に入ったことはそういう意味で意義があると思います。若い人だけではなく、ベテランの人が新しいフィールドに挑戦するような場にデビュー展がなるっていうのもアリなんじゃないかな。

青木秀明《re born》30 変 岩絵具、箔ほか

本江 藤木貴子さんは、着実に繊細によく描けている。ちょっと物足りない感じもするけどよく描けています。 立島 同感です。物足りないけど魅力的。 本江 そうそう。やっぱり奨励賞かな。 立島 日本画のたらし込みを上手に使って上品に仕上げているのがいいですね。
藤木貴子《静かな部屋》30F 麻紙、膠、岩絵具、親和箔

藤木貴子《静かな部屋》30F 麻紙、膠、岩絵具、親和箔

───そして、山田晋也さん。前回の入選作家でもあります。 本江 個人的にはもっと上の賞で良かったと思っているんです。典型的な公募展の絵に見えてしまうところが不利だったのかな。 立島 そうですね、一見団体の油画系に見えなくもない。だけどしっかり描けていてオリジナリティもある。まだ、在学中(秋田公立美大)にしては絵が意外と老成してるというか、若い人の絵じゃない(笑)。 本江 改めて見てやっぱり力があると思う。 立島 本人は多分そんなこと意識してないでしょうね。 本江 してないでしょう。まだまだ伸びしろあり。
山田晋也《絵画の天使》 30S 油彩、パネル

山田晋也《絵画の天使》 30S 油彩、パネル

───ここからは入選作品に移ります。 本江 赤澤慶二郎さんは、目立ってましたね。題名《私より私と呼ぶべき貴方》が考えさせられるというか、面白いね。 立島 全体的なしつらえが面白い。この輪のようなものは何なんだろう? 作家に直接聞いてみたいですね。
赤澤慶二郎《私より私と呼ぶべき貴方》 30F 油彩、パネル

赤澤慶二郎《私より私と呼ぶべき貴方》 30F 油彩、パネル

本江 石松チ明さんも目につきました。 立島 白が下地だとしたら2色しか使ってない。絵画とイラストのギリギリの所に立っているような作品だと思いませんか? そういうポジションにある。今の若い子たちはあまり意識して描いてないのかも。絵画性の強いものの中にこういうのがポツンと入ると結構目立って面白い。
石松チ明《みじめな天使》59.4×84.1cm イラストレーションボード、ペン(インク)、日本画絵具

石松チ明《みじめな天使》59.4×84.1cm イラストレーションボード、ペン(インク)、日本画絵具

本江 納義純さんは、知っている人なんだけど、この絵の通りの人。なんとなく純朴な感じで。心に残る記憶を辿って描いている。ほのぼのとした画面だね。 立島 そうですね。構図も真正面。画面いっぱいに描いて、空間もないけれど、それが逆に新鮮に映りますね。 本江 人物の輪郭が面白いね。ボヤ~とした感じ。幻みたいな。作家のコメントを読んだ後だからそう思うのかな。

納 義純《少年記》 20F 油彩、キャンバス

立島 甲斐有季穂さんは、俯瞰した地図のようになっているんですね。キルトみたいで、視点は面白い。 本江 もうちょっとフォルムをまとめた方が良かったのかも。もっとパッチワークみたいにしてしまった方が。 立島 細かく描いてはいるんだけど、その視点をもっとわかりやすく表現できるようになればもっと良い方向に行くんじゃないかな。ユニークだと思います。
甲斐有季穂《仕立町絵図》 30S  油彩、墨、粉末絵具、ミューグラウンド、パネル

甲斐有季穂《仕立町絵図》 30S 
油彩、墨、粉末絵具、ミューグラウンド、パネル

立島 上木原健二さんは、風景の中にポツンと人物がいることで何かを示唆するのが好きなんだね。 本江 現代社会の疎外感みたいなものを感じますね。 立島 なんだろうな?って思うところから考えさせられる。映画の一場面のようでもあるよね。空間表現としては面白い。木の枝ぶりとかにも何か示唆を含んでいるのかな。 本江 信念を感じますね。 
上木原健二《合理性だけではおさまりきれない生命の連鎖》 30F アクリル、キャンバス

上木原健二《合理性だけではおさまりきれない生命の連鎖》 30F アクリル、キャンバス

立島 後藤りささんは、すごく自由。いわゆる美大系の人はこういう絵は描かないから。 本江 色も整理しているし、線も多用していない。潔い。繊細だけど強さを感じます。そして、芹澤マルガリータさんは、以前から知っている作家なんだけれど、洗練されてきていて、絵を見て彼女だと気が付かなかった。 ───日本画なのに、日本画臭がしませんね。 本江 エキゾティックだよね。 立島 やっぱり自身のアイデンティティが関係しているのかな。あんまり「日本画」というものをあえて意識して描いてないんじゃないかな。
後藤りさ《trip(1)》 59.4×84.1cm 顔料、膠、墨、パネル

後藤りさ《trip(1)》 59.4×84.1cm 顔料、膠、墨、パネル

芹澤マルガリータ《路地》 30 号 高知麻紙、膠、胡粉、水干絵具、岩絵具

───そらみずほさん《しっくりこない》は、風俗画っぽいですね。 立島 この人も美大系じゃないんだね。 本江 何か否定しがたいものを感じる。 立島 イラストっぽいものに収まらないそういうテイストがある。 本江 本当の自分は何なのか。実感通りの絵なのかな。ゲームが妙にリアルだよね。儚く仕上げたところがいいね。 立島 きれいだと思います。

そらみずほ《しっくりこない》 30F アクリル、パステル

───会場である意味、異彩を放っていた篁七有さんはどうですか? 本江 良い絵だよね。 立島 「紅嫌い」みたいに、少しだけ紅を使ってあとは墨。墨彩色もちゃんと表現できているし、紅をさすのも粋でいい。独学でここまで頑張ったのは、大したもんだと思う。欲を言うと、竹の表現とかもっともっとしっかり勉強してもらいたいですね。でも全体の雰囲気とか構図とかしっかり掴んでいていいと思います。頑張ってもらいたい。

篁七有《# Not before Not after ~訶梨帝母図~》 30F 麻紙、胡粉、墨、岩絵具

本江 田中佑さんは今風の絵だよね。でも言いたいことがちゃんと描けている絵だと思います。 立島 痛々しい描写だけど、自分の世代が持っている葛藤みたいなものをストレートに描いていて評価できる。 本江 目が強い。目が語ろうとしている。そのコントラストが面白い。そこが良いのかな。実感をそのまま絵にできている。
田中 佑《繋縛》 30S 油彩、木パネル

田中 佑《繋縛》 30S 油彩、木パネル

立島 チヒロボは、紙、インク、写真のコラージュ。コンセプトがちゃんとある。でもコンセプトはわからなくても十分楽しめる絵ですね。 本江 そうだね。コラージュをうまく活用して楽しい絵に仕上げているね。ほかの入選作にこの手の作品はない。独自のものだね。 立島 記憶に残る作品ですね。中島淳志さんは、墨で大濱紙に描いている。西洋絵画の手法と日本画の水墨画のテクニックを使ってこれだけ描いている。大したもんです。 本江 技巧派ですね。墨彩の技法をこれだけ使ってなんで西洋の遺跡みたいなものを描いているんだろう? 聞いてみたいね。
チヒロボ《ぬのうし》 61×91cm 紙、インク、布

チヒロボ《ぬのうし》 61×91cm 紙、インク、布

中島淳志《Ruin -Foro Romano-》 30F 墨、大濱紙

中島淳志《Ruin -Foro Romano-》 30F 墨、大濱紙

立島 野尻恵梨華さんは、押し出しの強い作品を多く描いている作家です。サイズは大きくないけど、線も色もすごく強い。ちゃんとテーマも練られていて良いと思う。 本江 一度見たら、野尻さんの絵ってわかるものね。

野尻恵梨華《ひと踏み》 8F 油彩、鉛筆、金粉、キャンバス

───諏訪先生も触れていますが、野田晋央さんは、アンリ・ルソーを思わせますね。 立島 ちょっとだまし絵っぽく見えなくもない。生き物の配置にリズムを感じる。

野田晋央《Savanna Tour (yellow)》 30F アクリル、色鉛筆、コンテ、キャンバス

本江 林不一さん《通りゃんせ》はよく覚えている。死生観、退廃的だね。 立島 女性の表情、全体の雰囲気はすごく印象に残る。 本江 迫力があった。 立島 もっと技術的に上手くなっていくとより良い作品になる。このテイストとエッセンスを貫いていってくれるといいですね。
林 不一《通りゃんせ》 20M 雲肌麻紙、水干絵具、岩絵具

林 不一《通りゃんせ》
20M 雲肌麻紙、水干絵具、岩絵具

立島 松本あかねさんは、今風で、売れそうな絵だと思う。 本江 植物と人体を同化させたところに神妙さを感じます。的確な描写力が光ってる。

松本あかね《Sophie》 20F ワトソン紙、えんぴつ

───湯澤美麻さんも以前入選されています。 本江 この絵も好きだなぁ。よく覚えています。 立島 今回の方がよくなってる。説明的な部分がなくなって、ストレートになってきた。空の空間と植物がある大地の表現にオリジナリティがある。枝ぶりも独特。 本江 今回は、少し人工的な風景になった。大きい作品を描くとどんな感じになるか見てみたい。
湯澤美麻《Circum》 30F 油彩、綿布、パネル 

湯澤美麻《Circum》 30F 油彩、綿布、パネル 

立島 吉澤光子さんはあまり色を使わないで細かくしっかり描いているところが評価できる。竹林と野草の対比、コンビネーションがいいですね。竹林より野草の部分にフォーカスしているのが、日本画の古典から逸脱しているようで現代的で良いのかもしれないなぁ。吉増麻里子さんは筆遣いがいい。ダイナミックです。 本江 ダイナミズムがある。的確に表現されている。 立島 構図も面白いですね。 本江 基礎がしっかりしている作品だけど、オリジナリティもちゃんとある。
吉澤光子《蒼蒼》 10P 紙本彩色、薄美濃紙、岩絵具、銀箔

吉澤光子《蒼蒼》 10P 紙本彩色、薄美濃紙、岩絵具、銀箔

吉増麻里子《Flow》 20S 油彩、キャンバス

吉増麻里子《Flow》 20S 油彩、キャンバス
※本誌3月号133ページ掲載画像はトリミングに不備がありました。正しくは上記です。

───早足で25点を振り返りましたが、最後に、個人賞があるとしたら、どなたに授与したいですか? 本江 私はやっぱり、山田晋也さんかな。これを推したい。納さんも捨てがたいけれど・・・。 立島 僕は青木秀明さんの鳥かな。 本江 でもやっぱり今回のグランプリは、グランプリにふさわしいですよ。 ───ありがとうございました。
【諏訪 敦 選考評】
 当コンクールは、日本画や洋画、美術工芸などの動向を扱う『月刊美術』が、継続的な若手支援を標榜し、賞金を授与するだけでなく、誌面での紹介や、展示の機会提供などを積極的に行うそうだ。ということは主催美術誌の得意な領域で活躍することを見込まれる才能の発掘であり、それを了解した応募者たちであるのだろう。  しかし入選者の中には、その枠には留まらない領域での活動の可能性も感じさせる作家も混じっていた。実はこのコンクールに望みを感じたのはこの部分だった。今回飛び抜けた支持を集めた野中美里さんもその一人である。工作的な絵作りに慣れた画面が大勢を占める中、彼女のまさに筆に存分に語らせた、鮮度の高いペインタリーな画面には説得力があった。今回の受賞で個展の機会が副賞として提供されるが、将来に見据えていた活動に合致する現場がどこなのか考えながら、自己を限定することなく切り開いていってほしい。惰性の活動は、自らを狭める。  また、どこのコンクールでも入選者の大半は有名美術大学出身者が占めるものだが、今回の審査では、一般大学出身者など、そこにあてはまらない作家たちが、類型化を免れた感性を発揮し、入選を多く果たしていたことが印象的であった。イラストレーションとして魅力があった、石松チ明さん、アンリ・ルソーを思わせる密やかさが印象的だった野田晋央さん、他にも上木原健二さん、後藤りささんなどがそれにあたる。  また、山田晋也さんは本邦におけるシュルレアリスムの受容期を連想させるスタイルで注目された。新しさはないがまさに油彩画にしかできない濃厚さがあり、いまや貴重に思う。選外作品にも、“意味不明な肯定感”でおおいに困惑させられた酒巻幸絵さん、“田園に咲く純真”が眩しい山神敦さんなど、個人的に目に留まる作品は多くあったが、コンクール審査の常で、一人だけの支持では受賞には至らない。惜しい気がしたのでせめて名前を記しておく。(画家)
【奥村美佳 選考評】
 審査会場では一作ごとのエネルギーに圧倒された。  最初から目の離せなかった作品が、今回のグランプリ、野中美里さんの《いつまでも、あなたはいる》だった。どっしりとした構成に色彩がこぼれんばかりに躍動している。画面手前の陰から奥の陽だまりへと、数々の色が視線を誘う。これほど豊富で明るい色彩を緊密にまとめ上げ、作品世界に引き込める描き手とはどんな人物かと興味を惹かれ、心が高鳴った。審査員満場一致での受賞となった。  準グランプリの青栁友也さん《夜のラフランス》は静かさの中に生みだされた微妙で豊かな表情が美しい。古画のような典雅な趣があり、格調の高さが群を抜いていた。同じく準グランプリの八木恵子さん《夜はしんとして》は、切れ味の良い描線を活かした人物表現と銀箔を巧みにあしらった装飾が、抑えた色調の背景に映え、緊張感ある硬質な美しさが際立っていた。奨励賞の藤木貴子さん《静かな部屋》は何気ないモチーフを淡々と描きながらも、水を活かした日本画特有の表現で抒情的な世界を紡ぎ出していた。奨励賞の山田晋也さん《絵画の天使》は油彩特有の艶と透明感が不思議な作品世界を引き立て、観る者を吸い込むような力を感じた。奨励賞の青木秀明さん《re born》は繊細なマチエールと大胆な筆致で生命の力強さが描き出されていた。静と動が共存する堂々たる作品と言える。  入選作には目指すべき表現を明確に持ち、力強く歩みを進めているという、独自性が感じられる作品が多かったように思う。一方、今回惜しくも入選を逃した作品にも心惹かれる表現がみられ、今後が楽しみな作品も多くあったことを記したい。  初めて審査員を担当させていただき、決断の難しさと重みを引きずりながら選考に臨んだが、流行や体裁に惑わされず、ひたむきに表現を突き詰めている作品に出会えるこの経験こそ「美術新人賞デビュー展」ならではのものなのかと思った。(日本画家)
【瀧下和之 選考評】
 選考会場に入り、まずは歩きながら全作品を大まかに観ました。その時点で「ん…」と、良い意味で目と足を止めた作品が4点。  グランプリの野中美里さんほか、準グランプリの青栁友也さん、入選の野田晋央さん、吉増麻里子さん。「歩きながらでも作品に呼び止められた…」そんな印象を感じた4点です。  野中さんの作品は古き良き西洋絵画を思わせるような佇まいで、たくさんの作品が並んでる中にあっても一際目を引きました。満票獲得も納得の仕上がりです。ただし、自身の作品を複数同時にみせる場合はもう一工夫、視線を釘付けにする仕掛けがあると良いなと思います。色なのかモチーフなのかはわかりませんが、今後の個展が楽しみです。  青栁さんの作品は「色」「構図」の力関係が絶妙でした。この力関係が今後たくさんの作品制作をする中でも高確率で発揮する事が出来ればもっと素敵な作品が生まれそうな気がします。マンネリにならないよう「色」「構図」においては常に真剣勝負して欲しいです。  野田さんの作品は個人的に好きでした。もう一段階奥行きを感じさせる事が出来れば良かったかなと思います。例えば、背景の黄色は活かしつつもう少し奥の景色まで描く…それだけでも十分な効果が出ると思います。動物たちのディフォルメ具合はちょうど良かったので、(植物たち含め)画面上での配置にもう少し抑揚が欲しいです。吉増さんの作品は「センス」が優った絵なので特に言う事はありません。強いて言うならば明るめの色使いが上手い作家さんだと思うので、暗い画面にならないよう心がけてください。シュールな作風・構図、明るい色彩が訴えかけてくる限りは僕は常に票を入れてしまいそうです。  今回入選された方々は、次回のデビュー展までの一年間をどう過ごすかが大事です。次が開催されれば世間の目はもうそちらに行きます。充実した一年になるよう真摯な制作を続けて欲しいです。(画家)

審査風景

入選作品展 会期 3月11日(月)~16日(土) AM11:00~PM6:00 会場 〈第1会場〉フジヰ画廊 東京都中央区銀座2-8-5 銀座石川ビル 3F グランプリ 野中美里 奨励賞 藤木貴子 山田晋也 赤澤慶二郎 納義純 芹澤マルガリータ 篁七有 田中佑 チヒロボ 吉澤光子 〈第2会場〉ギャラリー和田 東京都中央区銀座1-8-8 三神ALビル1F 準グランプリ 青栁友也 八木恵子 奨励賞 青木秀明 石松チ明 上木原健二 甲斐有季穂 後藤りさ そらみずほ 中島淳志 野尻恵梨華 野田晋央 林不一 松本あかね 湯澤美麻 吉増麻里子


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