美術新人賞デビュー2019 審査総評&全入選作25点 一挙掲載!
【諏訪 敦 選考評】
当コンクールは、日本画や洋画、美術工芸などの動向を扱う『月刊美術』が、継続的な若手支援を標榜し、賞金を授与するだけでなく、誌面での紹介や、展示の機会提供などを積極的に行うそうだ。ということは主催美術誌の得意な領域で活躍することを見込まれる才能の発掘であり、それを了解した応募者たちであるのだろう。 しかし入選者の中には、その枠には留まらない領域での活動の可能性も感じさせる作家も混じっていた。実はこのコンクールに望みを感じたのはこの部分だった。今回飛び抜けた支持を集めた野中美里さんもその一人である。工作的な絵作りに慣れた画面が大勢を占める中、彼女のまさに筆に存分に語らせた、鮮度の高いペインタリーな画面には説得力があった。今回の受賞で個展の機会が副賞として提供されるが、将来に見据えていた活動に合致する現場がどこなのか考えながら、自己を限定することなく切り開いていってほしい。惰性の活動は、自らを狭める。 また、どこのコンクールでも入選者の大半は有名美術大学出身者が占めるものだが、今回の審査では、一般大学出身者など、そこにあてはまらない作家たちが、類型化を免れた感性を発揮し、入選を多く果たしていたことが印象的であった。イラストレーションとして魅力があった、石松チ明さん、アンリ・ルソーを思わせる密やかさが印象的だった野田晋央さん、他にも上木原健二さん、後藤りささんなどがそれにあたる。 また、山田晋也さんは本邦におけるシュルレアリスムの受容期を連想させるスタイルで注目された。新しさはないがまさに油彩画にしかできない濃厚さがあり、いまや貴重に思う。選外作品にも、“意味不明な肯定感”でおおいに困惑させられた酒巻幸絵さん、“田園に咲く純真”が眩しい山神敦さんなど、個人的に目に留まる作品は多くあったが、コンクール審査の常で、一人だけの支持では受賞には至らない。惜しい気がしたのでせめて名前を記しておく。(画家)
当コンクールは、日本画や洋画、美術工芸などの動向を扱う『月刊美術』が、継続的な若手支援を標榜し、賞金を授与するだけでなく、誌面での紹介や、展示の機会提供などを積極的に行うそうだ。ということは主催美術誌の得意な領域で活躍することを見込まれる才能の発掘であり、それを了解した応募者たちであるのだろう。 しかし入選者の中には、その枠には留まらない領域での活動の可能性も感じさせる作家も混じっていた。実はこのコンクールに望みを感じたのはこの部分だった。今回飛び抜けた支持を集めた野中美里さんもその一人である。工作的な絵作りに慣れた画面が大勢を占める中、彼女のまさに筆に存分に語らせた、鮮度の高いペインタリーな画面には説得力があった。今回の受賞で個展の機会が副賞として提供されるが、将来に見据えていた活動に合致する現場がどこなのか考えながら、自己を限定することなく切り開いていってほしい。惰性の活動は、自らを狭める。 また、どこのコンクールでも入選者の大半は有名美術大学出身者が占めるものだが、今回の審査では、一般大学出身者など、そこにあてはまらない作家たちが、類型化を免れた感性を発揮し、入選を多く果たしていたことが印象的であった。イラストレーションとして魅力があった、石松チ明さん、アンリ・ルソーを思わせる密やかさが印象的だった野田晋央さん、他にも上木原健二さん、後藤りささんなどがそれにあたる。 また、山田晋也さんは本邦におけるシュルレアリスムの受容期を連想させるスタイルで注目された。新しさはないがまさに油彩画にしかできない濃厚さがあり、いまや貴重に思う。選外作品にも、“意味不明な肯定感”でおおいに困惑させられた酒巻幸絵さん、“田園に咲く純真”が眩しい山神敦さんなど、個人的に目に留まる作品は多くあったが、コンクール審査の常で、一人だけの支持では受賞には至らない。惜しい気がしたのでせめて名前を記しておく。(画家)
【奥村美佳 選考評】
審査会場では一作ごとのエネルギーに圧倒された。 最初から目の離せなかった作品が、今回のグランプリ、野中美里さんの《いつまでも、あなたはいる》だった。どっしりとした構成に色彩がこぼれんばかりに躍動している。画面手前の陰から奥の陽だまりへと、数々の色が視線を誘う。これほど豊富で明るい色彩を緊密にまとめ上げ、作品世界に引き込める描き手とはどんな人物かと興味を惹かれ、心が高鳴った。審査員満場一致での受賞となった。 準グランプリの青栁友也さん《夜のラフランス》は静かさの中に生みだされた微妙で豊かな表情が美しい。古画のような典雅な趣があり、格調の高さが群を抜いていた。同じく準グランプリの八木恵子さん《夜はしんとして》は、切れ味の良い描線を活かした人物表現と銀箔を巧みにあしらった装飾が、抑えた色調の背景に映え、緊張感ある硬質な美しさが際立っていた。奨励賞の藤木貴子さん《静かな部屋》は何気ないモチーフを淡々と描きながらも、水を活かした日本画特有の表現で抒情的な世界を紡ぎ出していた。奨励賞の山田晋也さん《絵画の天使》は油彩特有の艶と透明感が不思議な作品世界を引き立て、観る者を吸い込むような力を感じた。奨励賞の青木秀明さん《re born》は繊細なマチエールと大胆な筆致で生命の力強さが描き出されていた。静と動が共存する堂々たる作品と言える。 入選作には目指すべき表現を明確に持ち、力強く歩みを進めているという、独自性が感じられる作品が多かったように思う。一方、今回惜しくも入選を逃した作品にも心惹かれる表現がみられ、今後が楽しみな作品も多くあったことを記したい。 初めて審査員を担当させていただき、決断の難しさと重みを引きずりながら選考に臨んだが、流行や体裁に惑わされず、ひたむきに表現を突き詰めている作品に出会えるこの経験こそ「美術新人賞デビュー展」ならではのものなのかと思った。(日本画家)
審査会場では一作ごとのエネルギーに圧倒された。 最初から目の離せなかった作品が、今回のグランプリ、野中美里さんの《いつまでも、あなたはいる》だった。どっしりとした構成に色彩がこぼれんばかりに躍動している。画面手前の陰から奥の陽だまりへと、数々の色が視線を誘う。これほど豊富で明るい色彩を緊密にまとめ上げ、作品世界に引き込める描き手とはどんな人物かと興味を惹かれ、心が高鳴った。審査員満場一致での受賞となった。 準グランプリの青栁友也さん《夜のラフランス》は静かさの中に生みだされた微妙で豊かな表情が美しい。古画のような典雅な趣があり、格調の高さが群を抜いていた。同じく準グランプリの八木恵子さん《夜はしんとして》は、切れ味の良い描線を活かした人物表現と銀箔を巧みにあしらった装飾が、抑えた色調の背景に映え、緊張感ある硬質な美しさが際立っていた。奨励賞の藤木貴子さん《静かな部屋》は何気ないモチーフを淡々と描きながらも、水を活かした日本画特有の表現で抒情的な世界を紡ぎ出していた。奨励賞の山田晋也さん《絵画の天使》は油彩特有の艶と透明感が不思議な作品世界を引き立て、観る者を吸い込むような力を感じた。奨励賞の青木秀明さん《re born》は繊細なマチエールと大胆な筆致で生命の力強さが描き出されていた。静と動が共存する堂々たる作品と言える。 入選作には目指すべき表現を明確に持ち、力強く歩みを進めているという、独自性が感じられる作品が多かったように思う。一方、今回惜しくも入選を逃した作品にも心惹かれる表現がみられ、今後が楽しみな作品も多くあったことを記したい。 初めて審査員を担当させていただき、決断の難しさと重みを引きずりながら選考に臨んだが、流行や体裁に惑わされず、ひたむきに表現を突き詰めている作品に出会えるこの経験こそ「美術新人賞デビュー展」ならではのものなのかと思った。(日本画家)
【瀧下和之 選考評】
選考会場に入り、まずは歩きながら全作品を大まかに観ました。その時点で「ん…」と、良い意味で目と足を止めた作品が4点。 グランプリの野中美里さんほか、準グランプリの青栁友也さん、入選の野田晋央さん、吉増麻里子さん。「歩きながらでも作品に呼び止められた…」そんな印象を感じた4点です。 野中さんの作品は古き良き西洋絵画を思わせるような佇まいで、たくさんの作品が並んでる中にあっても一際目を引きました。満票獲得も納得の仕上がりです。ただし、自身の作品を複数同時にみせる場合はもう一工夫、視線を釘付けにする仕掛けがあると良いなと思います。色なのかモチーフなのかはわかりませんが、今後の個展が楽しみです。 青栁さんの作品は「色」「構図」の力関係が絶妙でした。この力関係が今後たくさんの作品制作をする中でも高確率で発揮する事が出来ればもっと素敵な作品が生まれそうな気がします。マンネリにならないよう「色」「構図」においては常に真剣勝負して欲しいです。 野田さんの作品は個人的に好きでした。もう一段階奥行きを感じさせる事が出来れば良かったかなと思います。例えば、背景の黄色は活かしつつもう少し奥の景色まで描く…それだけでも十分な効果が出ると思います。動物たちのディフォルメ具合はちょうど良かったので、(植物たち含め)画面上での配置にもう少し抑揚が欲しいです。吉増さんの作品は「センス」が優った絵なので特に言う事はありません。強いて言うならば明るめの色使いが上手い作家さんだと思うので、暗い画面にならないよう心がけてください。シュールな作風・構図、明るい色彩が訴えかけてくる限りは僕は常に票を入れてしまいそうです。 今回入選された方々は、次回のデビュー展までの一年間をどう過ごすかが大事です。次が開催されれば世間の目はもうそちらに行きます。充実した一年になるよう真摯な制作を続けて欲しいです。(画家)
入選作品展
会期 3月11日(月)~16日(土) AM11:00~PM6:00
会場
〈第1会場〉フジヰ画廊 東京都中央区銀座2-8-5 銀座石川ビル 3F
グランプリ 野中美里
奨励賞 藤木貴子 山田晋也
赤澤慶二郎 納義純 芹澤マルガリータ 篁七有 田中佑 チヒロボ 吉澤光子
〈第2会場〉ギャラリー和田 東京都中央区銀座1-8-8 三神ALビル1F
準グランプリ 青栁友也 八木恵子
奨励賞 青木秀明
石松チ明 上木原健二 甲斐有季穂 後藤りさ そらみずほ 中島淳志 野尻恵梨華 野田晋央 林不一 松本あかね 湯澤美麻 吉増麻里子選考会場に入り、まずは歩きながら全作品を大まかに観ました。その時点で「ん…」と、良い意味で目と足を止めた作品が4点。 グランプリの野中美里さんほか、準グランプリの青栁友也さん、入選の野田晋央さん、吉増麻里子さん。「歩きながらでも作品に呼び止められた…」そんな印象を感じた4点です。 野中さんの作品は古き良き西洋絵画を思わせるような佇まいで、たくさんの作品が並んでる中にあっても一際目を引きました。満票獲得も納得の仕上がりです。ただし、自身の作品を複数同時にみせる場合はもう一工夫、視線を釘付けにする仕掛けがあると良いなと思います。色なのかモチーフなのかはわかりませんが、今後の個展が楽しみです。 青栁さんの作品は「色」「構図」の力関係が絶妙でした。この力関係が今後たくさんの作品制作をする中でも高確率で発揮する事が出来ればもっと素敵な作品が生まれそうな気がします。マンネリにならないよう「色」「構図」においては常に真剣勝負して欲しいです。 野田さんの作品は個人的に好きでした。もう一段階奥行きを感じさせる事が出来れば良かったかなと思います。例えば、背景の黄色は活かしつつもう少し奥の景色まで描く…それだけでも十分な効果が出ると思います。動物たちのディフォルメ具合はちょうど良かったので、(植物たち含め)画面上での配置にもう少し抑揚が欲しいです。吉増さんの作品は「センス」が優った絵なので特に言う事はありません。強いて言うならば明るめの色使いが上手い作家さんだと思うので、暗い画面にならないよう心がけてください。シュールな作風・構図、明るい色彩が訴えかけてくる限りは僕は常に票を入れてしまいそうです。 今回入選された方々は、次回のデビュー展までの一年間をどう過ごすかが大事です。次が開催されれば世間の目はもうそちらに行きます。充実した一年になるよう真摯な制作を続けて欲しいです。(画家)
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