美術新人賞デビュー2017 審査総評&全入選作27点、一挙掲載!
【國司華子 選考評】
グランプリの武器は「見る側の想像力」 なんだか解らないという強み、とでも言えばよいのだろうか。グランプリの柏倉風馬《Les Enfants Terribles》は選考が終わるまでじわじわと残っていった。写真には写り辛いが、黒の質の変化とバックの白の幅などが画面に揺れのようなものを生む。見る度に印象が違い、見る側の想像力という武器を携えることとなった作品と言える。 準グランプリのあらきかずま《森》。精密な山々と白く抜ける雲海、軽快かつ冷静な配慮の妙。大作を見てみたい。 同じくにしざかひろみ《一月》。暗闇においてスポットライトで捉えられてしまったような感覚は大変映像的。小さいながらも緊張感大。 奨励賞秋元はづき《静物-aka-》。色感の美しさとのびやかな筆運びが目を引く。色を主題とした感覚的な仕事を形にしていく具合が清々しい。 入選作では、まず富田伸介《利き足》。全体に抑えた色調において選択されたネックラインの色の響きと、謎の構図がなぜか脳裏に残る。画面の一回り外側が見たかった。 福島沙由美の《Spandau》は、ひっくり返したら何かがとろりとする。不思議だ、そんな経験に覚えがある気にさせられる。 館山浩丈《木洩れ日》は、やりきった先に生まれたのであろうこわいまでの緊迫感と違和感がひたひたとそこに存在する。 谷口朋栄《もうひとつの宙色》は技法と感性の双方がこだわりながらも遠慮がちにせめぎ合う。 佐藤麗生《噛まれたあとがよくない》は、マットで不透明な色の扱いと題材が独特。画面に温度を感じないためか、夢の中のような、舞台の上のような不思議な感覚を受けた。 金子一生《homunculus》は、確かな技術に対比する主観的なモノの捉え方が印象的。展開に期待。 審査参加は2回目、ここからは昨年同様申し上げたい。傾向と対策など全く不要。どうぞこちらを驚かせてください、面白がらせてください、そして黙らせてください! (日本画家)
グランプリの武器は「見る側の想像力」 なんだか解らないという強み、とでも言えばよいのだろうか。グランプリの柏倉風馬《Les Enfants Terribles》は選考が終わるまでじわじわと残っていった。写真には写り辛いが、黒の質の変化とバックの白の幅などが画面に揺れのようなものを生む。見る度に印象が違い、見る側の想像力という武器を携えることとなった作品と言える。 準グランプリのあらきかずま《森》。精密な山々と白く抜ける雲海、軽快かつ冷静な配慮の妙。大作を見てみたい。 同じくにしざかひろみ《一月》。暗闇においてスポットライトで捉えられてしまったような感覚は大変映像的。小さいながらも緊張感大。 奨励賞秋元はづき《静物-aka-》。色感の美しさとのびやかな筆運びが目を引く。色を主題とした感覚的な仕事を形にしていく具合が清々しい。 入選作では、まず富田伸介《利き足》。全体に抑えた色調において選択されたネックラインの色の響きと、謎の構図がなぜか脳裏に残る。画面の一回り外側が見たかった。 福島沙由美の《Spandau》は、ひっくり返したら何かがとろりとする。不思議だ、そんな経験に覚えがある気にさせられる。 館山浩丈《木洩れ日》は、やりきった先に生まれたのであろうこわいまでの緊迫感と違和感がひたひたとそこに存在する。 谷口朋栄《もうひとつの宙色》は技法と感性の双方がこだわりながらも遠慮がちにせめぎ合う。 佐藤麗生《噛まれたあとがよくない》は、マットで不透明な色の扱いと題材が独特。画面に温度を感じないためか、夢の中のような、舞台の上のような不思議な感覚を受けた。 金子一生《homunculus》は、確かな技術に対比する主観的なモノの捉え方が印象的。展開に期待。 審査参加は2回目、ここからは昨年同様申し上げたい。傾向と対策など全く不要。どうぞこちらを驚かせてください、面白がらせてください、そして黙らせてください! (日本画家)
【石黒賢一郎 選考評】
目立つ大胆な表現の減少 デビュー展の審査は今回で2度目であった。 近年はイラストと絵画の垣根が無くなってきている。様々な表現方法による作品を見ることができるので、とても新鮮である。 まずは、グランプリを受賞した柏倉風馬さんの《Les Enfants Terribles》。特に印象的だったのは、独自の世界から生まれた幻想的な光景を、繊細な表現によって可能にした点である。奇怪な人物群らしき物体の存在感、そして白黒のトーンの美しさには強く惹きつけられた。人間の限界とは想像力の限界である。そこに制限を設けてはならないことを体現した作品であった。 次は、準グランプリのにしざかひろみさん《一月》。一見すると版画のようにも思えたが、ペンを用いた細密描写であった。繊細な表現によって独自の雰囲気を作り出すことに成功しており、全体がほぼモノトーンによる静かな世界である。「神は細部に宿る」と言うが、作者の細やかな神経が画面全体に行き届いた様子はその言葉通りと言える。 同じく、準グランプリのあらきかずまさん《森》。ペンによる細かい線の集積によって全体が緻密に描かれており、作家自身のフィルターを通した表現が、溢れる生命の息吹を感じさせた。自然と対峙することで生み出された繊細な描写が印象に残る、美しい作品であった。 奨励賞は青木惠さん《より一層深く息をして》。ありがちなセンチメンタリズムからは距離を置き、フォルムと色彩によって装飾性の強い独自の空間を作り出していた点に好感 が持てた。 同じく奨励賞の秋元はづきさんの《静物-aka-》。色彩とフォルムの関係性がとても美しく、色感の良さも感じた。モチーフと作家との内的な繋がりをより深めてほしいと感じた。 今回は完成度が高いものが多かったが、その一方で、大胆な表現による作品は前回よりも少なかったように思う。次回は、オリジナリティー溢れる大胆な作品に出会えることを期待したい。 (洋画家)
目立つ大胆な表現の減少 デビュー展の審査は今回で2度目であった。 近年はイラストと絵画の垣根が無くなってきている。様々な表現方法による作品を見ることができるので、とても新鮮である。 まずは、グランプリを受賞した柏倉風馬さんの《Les Enfants Terribles》。特に印象的だったのは、独自の世界から生まれた幻想的な光景を、繊細な表現によって可能にした点である。奇怪な人物群らしき物体の存在感、そして白黒のトーンの美しさには強く惹きつけられた。人間の限界とは想像力の限界である。そこに制限を設けてはならないことを体現した作品であった。 次は、準グランプリのにしざかひろみさん《一月》。一見すると版画のようにも思えたが、ペンを用いた細密描写であった。繊細な表現によって独自の雰囲気を作り出すことに成功しており、全体がほぼモノトーンによる静かな世界である。「神は細部に宿る」と言うが、作者の細やかな神経が画面全体に行き届いた様子はその言葉通りと言える。 同じく、準グランプリのあらきかずまさん《森》。ペンによる細かい線の集積によって全体が緻密に描かれており、作家自身のフィルターを通した表現が、溢れる生命の息吹を感じさせた。自然と対峙することで生み出された繊細な描写が印象に残る、美しい作品であった。 奨励賞は青木惠さん《より一層深く息をして》。ありがちなセンチメンタリズムからは距離を置き、フォルムと色彩によって装飾性の強い独自の空間を作り出していた点に好感 が持てた。 同じく奨励賞の秋元はづきさんの《静物-aka-》。色彩とフォルムの関係性がとても美しく、色感の良さも感じた。モチーフと作家との内的な繋がりをより深めてほしいと感じた。 今回は完成度が高いものが多かったが、その一方で、大胆な表現による作品は前回よりも少なかったように思う。次回は、オリジナリティー溢れる大胆な作品に出会えることを期待したい。 (洋画家)
【福井江太郎 選考評】
荒削りのなかの魅力と集中力 入選作品の選考が進むにつれ、グランプリ受賞の柏倉風馬《Les Enfants Terribles》は、あきらかに他と違う雰囲気を放っていた。グレーの中間色を多様化した色彩と、技法の複雑さが作品に深みを与えている。プロの仕事というのは、作品の裏に何かを感じさせる力だと思う。作品世界に引き込む強い魅力を感じる。満場一致のグランプリ受賞だった。 準グランプリのにしざかひろみ《一月》は、小さいサイズながら密度が濃く、強い存在感で選考はじめから目を引いた。あらきかずまの《森》は細密な線描の集積で画面が埋め尽くされている。そのため、描かれていない白色の地が目を引き美しい。 奨励賞の秋元はづきの《静物-aka-》はボナールを彷彿とさせる色彩の美しさと大胆さは秀逸である。青木惠の《より一層深く息をして》は、作品を見たとき、なぜ? という疑問が沸く。男性の頭上にハイビスカスが咲いている。ぜひ、本人に聞いてみたい。その他、潮田和也の《祈りにふさわしい場所がきっと見つかる》、加藤寛史の《卓上動物園│ヴァニタス│》、金子一生の《homunculus》の対象を見つめる真摯な仕事にも注目したい。 今年のデビュー展は、総体としてレベルが高かった。そのため、入選から漏れた作品にも記憶に残る作品が数多くあった。しかし、人の目に焼きつく作品というのは、描いている本人も発見し感動しながら描いているからこそ輝いて見えるのだろう。本年の受賞作は、荒削りながらも作品にのめり込む集中力と作品に対する愛情の深さが人を引きつける魅力に繋がった。 (日本画家)
入選作品展
会期 2月27日(月)~3月4日(土) AM11:00~PM6:00
会場
〈第1会場〉フジヰ画廊 東京都中央区銀座2-8-5 銀座石川ビル 3F
(秋元はづき、イクタケイコ、今福康介、柏倉風馬、金子一生、佐藤麗生、鈴木優香、瀬戸口祐佳、芳賀雅之、廣岡元紀、福島沙由美、三村梓)
〈第2会場〉ギャラリー和田 東京都中央区銀座1-8-8 三神ALビル1F
(青木惠、あらきかずま、潮田和也、梶川能一、加藤寛史、坂場加奈子、佐藤奈都弥、舘山浩丈、棚町宜弘、谷口朋栄、富田伸介、中村美津穂、にしざかひろみ、本多翔、湯澤美麻)
荒削りのなかの魅力と集中力 入選作品の選考が進むにつれ、グランプリ受賞の柏倉風馬《Les Enfants Terribles》は、あきらかに他と違う雰囲気を放っていた。グレーの中間色を多様化した色彩と、技法の複雑さが作品に深みを与えている。プロの仕事というのは、作品の裏に何かを感じさせる力だと思う。作品世界に引き込む強い魅力を感じる。満場一致のグランプリ受賞だった。 準グランプリのにしざかひろみ《一月》は、小さいサイズながら密度が濃く、強い存在感で選考はじめから目を引いた。あらきかずまの《森》は細密な線描の集積で画面が埋め尽くされている。そのため、描かれていない白色の地が目を引き美しい。 奨励賞の秋元はづきの《静物-aka-》はボナールを彷彿とさせる色彩の美しさと大胆さは秀逸である。青木惠の《より一層深く息をして》は、作品を見たとき、なぜ? という疑問が沸く。男性の頭上にハイビスカスが咲いている。ぜひ、本人に聞いてみたい。その他、潮田和也の《祈りにふさわしい場所がきっと見つかる》、加藤寛史の《卓上動物園│ヴァニタス│》、金子一生の《homunculus》の対象を見つめる真摯な仕事にも注目したい。 今年のデビュー展は、総体としてレベルが高かった。そのため、入選から漏れた作品にも記憶に残る作品が数多くあった。しかし、人の目に焼きつく作品というのは、描いている本人も発見し感動しながら描いているからこそ輝いて見えるのだろう。本年の受賞作は、荒削りながらも作品にのめり込む集中力と作品に対する愛情の深さが人を引きつける魅力に繋がった。 (日本画家)
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