美術新人賞デビュー2016 審査総評&全入選作26点、一挙掲載!
【國司華子 選考評】
表現の垣根を超えた驚きを 砂時計の砂に足を取られるような感覚だった。 最終的に《迷子はどこにも帰らない》の野間祥子さんがグランプリに決まった瞬間は、その場が砂時計の砂さながら、するするとあらららと微かな摩擦をともない引き込まれていくという、なんとも静寂で確信のある瞬間だったのではないだろうか。大らかさと繊細さの混在のバランスの妙であり、流行りと関わりのない表現が審査側の好き嫌いの次元を一つ外れた感。期せずして、デビュー展の名に相応しい選考となったように思う。 準グランプリの《red》原野金一郎さんの画面のたたずまいには、鑑賞側をついつい近寄らせてしまうユニークな違和感があった。場面の醸し出す、「瞬間の色」のようなもの、いわゆるふとしたものを察知させる何色かのフラッシュにも似たデジャブのような町角のシーンが、残像化する。他の作品もぜひ見てみたいものである。 奨励賞の《麻睡》鈴木明日香さんは、得体の知れない何処かに沈み込む、硬質な背中が美しい。際きわの表現に作家独自の意識が見て取れる。 そのほか、《さよならお母さん》の高橋美幸さんは、ひたひたと迫ってくる作品、記憶に残っている。重いのだが軽やかで、独特な鼓動や呼吸を感じた。 今回よりデビュー展の審査に初めて参加させていただき、とても新鮮だった。 傾向とか対策などは必要なし。此方の思惑も真っさら。表現の垣根をひょいと超えて、驚かせて頂きたい。是非、そんな感覚で果敢なご応募を更に期待。 (日本画家)
表現の垣根を超えた驚きを 砂時計の砂に足を取られるような感覚だった。 最終的に《迷子はどこにも帰らない》の野間祥子さんがグランプリに決まった瞬間は、その場が砂時計の砂さながら、するするとあらららと微かな摩擦をともない引き込まれていくという、なんとも静寂で確信のある瞬間だったのではないだろうか。大らかさと繊細さの混在のバランスの妙であり、流行りと関わりのない表現が審査側の好き嫌いの次元を一つ外れた感。期せずして、デビュー展の名に相応しい選考となったように思う。 準グランプリの《red》原野金一郎さんの画面のたたずまいには、鑑賞側をついつい近寄らせてしまうユニークな違和感があった。場面の醸し出す、「瞬間の色」のようなもの、いわゆるふとしたものを察知させる何色かのフラッシュにも似たデジャブのような町角のシーンが、残像化する。他の作品もぜひ見てみたいものである。 奨励賞の《麻睡》鈴木明日香さんは、得体の知れない何処かに沈み込む、硬質な背中が美しい。際きわの表現に作家独自の意識が見て取れる。 そのほか、《さよならお母さん》の高橋美幸さんは、ひたひたと迫ってくる作品、記憶に残っている。重いのだが軽やかで、独特な鼓動や呼吸を感じた。 今回よりデビュー展の審査に初めて参加させていただき、とても新鮮だった。 傾向とか対策などは必要なし。此方の思惑も真っさら。表現の垣根をひょいと超えて、驚かせて頂きたい。是非、そんな感覚で果敢なご応募を更に期待。 (日本画家)
【石黒賢一郎 選考評】
技術偏重を離れた新たな潮流 このコンクールはプロを目指すための「デビュー」という名前を冠している。その名の通り、すでに作家活動されている方々の作品も含めて完成度の高い数々の作品が集まった。 大賞に選出された《迷子はどこにも帰らない》野間祥子さんは、品格を感じさせる作品であった。通常の画材と比較すると物質としての強度を作りにくい水彩という技法ながらも、画面の物質的な強さを十分に兼ね備えた非常に完成度の高い作品であった。繊細さの中にも物語性を感じた。 次に、準グランプリに選出された原野金一郎さん《red》は、まるでデジタルの無機質な虚構空間を表しているかのようで、リアリズム的な手法の中にも現代性を感じるものとなっていた。作品のサイズが小さかったため、大賞に至らなかったという点は残念に思う。このバーチャルな世界感をより大きな画面で見てみたい。 同じく準グランプリの須恵朋子さん《神の島より》は、岩絵の具の持つ独特の美しい色彩と独特のマチエールにより、堅固な画面を作り出しているのが印象的であった。 奨励賞に選ばれた2名については、藤田吾翔さん《ある窓の多い家》のペンと絵の具、そして鈴木明日香さん《麻睡》のクレヨンと油彩という、各自のオリジナルの技法が作品に良く生かされていたのが印象的だった。 入選作の中にも現代的な表現の要素を持ち合わせた印象に残る様々な作品があり、新しい潮流を感じた。今回の選考に携わることができたことを大変光栄に思う。 技術偏重の傾向がある現在の日本アートシーンの中において、今回の入選者には流行にとらわれることなく形而上的な部分をより大事にして、これからも素晴らしい作品を発表し続けてもらいたいと強く願っている。 (洋画家)
技術偏重を離れた新たな潮流 このコンクールはプロを目指すための「デビュー」という名前を冠している。その名の通り、すでに作家活動されている方々の作品も含めて完成度の高い数々の作品が集まった。 大賞に選出された《迷子はどこにも帰らない》野間祥子さんは、品格を感じさせる作品であった。通常の画材と比較すると物質としての強度を作りにくい水彩という技法ながらも、画面の物質的な強さを十分に兼ね備えた非常に完成度の高い作品であった。繊細さの中にも物語性を感じた。 次に、準グランプリに選出された原野金一郎さん《red》は、まるでデジタルの無機質な虚構空間を表しているかのようで、リアリズム的な手法の中にも現代性を感じるものとなっていた。作品のサイズが小さかったため、大賞に至らなかったという点は残念に思う。このバーチャルな世界感をより大きな画面で見てみたい。 同じく準グランプリの須恵朋子さん《神の島より》は、岩絵の具の持つ独特の美しい色彩と独特のマチエールにより、堅固な画面を作り出しているのが印象的であった。 奨励賞に選ばれた2名については、藤田吾翔さん《ある窓の多い家》のペンと絵の具、そして鈴木明日香さん《麻睡》のクレヨンと油彩という、各自のオリジナルの技法が作品に良く生かされていたのが印象的だった。 入選作の中にも現代的な表現の要素を持ち合わせた印象に残る様々な作品があり、新しい潮流を感じた。今回の選考に携わることができたことを大変光栄に思う。 技術偏重の傾向がある現在の日本アートシーンの中において、今回の入選者には流行にとらわれることなく形而上的な部分をより大事にして、これからも素晴らしい作品を発表し続けてもらいたいと強く願っている。 (洋画家)
【福井江太郎 選考評】
出品サイズギリギリで勝負する 積極性が欲しい 4回目を迎えた「美術新人賞デビュー」で初の審査を担当させていただいた。審査会場に入った時に出品作全体のレベルの高さを感じ、その後、入選作とその他の作品との線引きが非常に困難だった。展示会場の壁面の都合により、今回落選した作品にも惜しい作品が多くあったことを記しておきたい。回を重ねるごとに、出品者のねらいと主催者の思惑が一致してきた証しだろう。 グランプリの野間祥子《迷子はどこにも帰らない》は、審査員満場一致での受賞となった。透明水彩という非常に脆弱な性質の画材にも関わらず、油絵具や岩絵具などの画材と引けを取らない画面の強さは、作家が確固とした世界観を持っているからだろう。作品世界へと引き込む力は、劇場で芝居を見ているかのような仮想空間に見るものを誘う「幻惑」のようなものを感じる。準グランプリの原野金一郎《red》は、具象作品にも関わらず、非現実的な独特の緊張感が異彩を放っていた。この臭いのようなものが、作家として生きて行くための大きな柱になる。これを客観視し、熟成させていって欲しい。惜しいのは、作品サイズが小さいことだ。準グランプリの須惠朋子《神の島より》は、誌面では伝わりにくいが、ダイビングを経験したことがある筆者には、それに通じる色彩の美しさを感じる。奨励賞の鈴木明日香《麻睡》は、重ねたクレヨンの層をペインティングナイフで削り、岩のような画面を作り出していて重厚な質感を出すことに成功している。奨励賞の藤田吾翔《ある窓の多い家》は、インクとアクリル絵具の黒のみで描いている。絵画としての画面の強さを引き出すには、素材の単調さが気になる所であり、もう一工夫ほしい。 他に注目した作品は、竹田涼乃《生》、にしざかひろみ《白い木》、髙島美幸《さよならお母さん》、粂原愛《あかぬ色香は》であった。総観として、作品サイズの小ささが気になった。デビュー展の目的でもある、プロの画家を目指す者であれば、出品サイズギリギリの積極的、意欲的な作品を望みたい。 (日本画家)
入選作品展
会期 2月29日(月)~3月5日(土) AM11:00~PM6:00
会場
〈第1会場〉フジヰ画廊 東京都中央区銀座2-8-5 銀座石川ビル 3F
(今枝加奈、潮田和也、粂原愛、佐藤龍生、鈴木明日香、髙島美幸、竹原美也子、にしざかひろみ、野間祥子、藤田吾翔、山下文明)
〈第2会場〉ギャラリー和田 東京都中央区銀座1-8-8 三神ALビル1F
(荒井志帆、伊藤拓哉、宇野嘉祐、尾﨑慶子、塩見恭央、清水航、須惠朋子、竹田涼乃、東條智美、早川絵理、林田健、原野金一郎、藤原泰佑、南花奈、山口弘彦)
出品サイズギリギリで勝負する 積極性が欲しい 4回目を迎えた「美術新人賞デビュー」で初の審査を担当させていただいた。審査会場に入った時に出品作全体のレベルの高さを感じ、その後、入選作とその他の作品との線引きが非常に困難だった。展示会場の壁面の都合により、今回落選した作品にも惜しい作品が多くあったことを記しておきたい。回を重ねるごとに、出品者のねらいと主催者の思惑が一致してきた証しだろう。 グランプリの野間祥子《迷子はどこにも帰らない》は、審査員満場一致での受賞となった。透明水彩という非常に脆弱な性質の画材にも関わらず、油絵具や岩絵具などの画材と引けを取らない画面の強さは、作家が確固とした世界観を持っているからだろう。作品世界へと引き込む力は、劇場で芝居を見ているかのような仮想空間に見るものを誘う「幻惑」のようなものを感じる。準グランプリの原野金一郎《red》は、具象作品にも関わらず、非現実的な独特の緊張感が異彩を放っていた。この臭いのようなものが、作家として生きて行くための大きな柱になる。これを客観視し、熟成させていって欲しい。惜しいのは、作品サイズが小さいことだ。準グランプリの須惠朋子《神の島より》は、誌面では伝わりにくいが、ダイビングを経験したことがある筆者には、それに通じる色彩の美しさを感じる。奨励賞の鈴木明日香《麻睡》は、重ねたクレヨンの層をペインティングナイフで削り、岩のような画面を作り出していて重厚な質感を出すことに成功している。奨励賞の藤田吾翔《ある窓の多い家》は、インクとアクリル絵具の黒のみで描いている。絵画としての画面の強さを引き出すには、素材の単調さが気になる所であり、もう一工夫ほしい。 他に注目した作品は、竹田涼乃《生》、にしざかひろみ《白い木》、髙島美幸《さよならお母さん》、粂原愛《あかぬ色香は》であった。総観として、作品サイズの小ささが気になった。デビュー展の目的でもある、プロの画家を目指す者であれば、出品サイズギリギリの積極的、意欲的な作品を望みたい。 (日本画家)