デビュー2014審査所感

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〜日本画作品の台頭に注目〜

出品者のキャリアと同様に実に多彩なジャンルの作品が出揃った第2回展。
本江邦夫(多摩美術大学教授)、立島惠(佐藤美術館学芸部長)の2氏に作家審査員から丸山勉氏(洋画家)が加わり、今回の印象、所感などを縦横に語る。

――デビュー展も2年目を迎え、昨年12月、最終審査を終えました。今回はエントリー総数202件、うち一次審査を通過した78点が最終審査へとまわり、31点が入選となりました。注目のグランプリは、前回のしっとりと落ち着いた室内風景(福田真規《フーガ》)から一転、人物(女性像)を全面に押し出した財田翔悟さんの《はこいり》に決まりました。

丸山 この作品、学校では絶対教えられないジャンルなんですよ。それは反社会的なこととエロいジャンルのこと。今は、学校が優秀な人が多すぎて、体裁いい内容のことからじゃないと美術の話をはじめないから、こういうことできないんですよね。でも、やっぱりエロって大事じゃないですか。

本江 エロっていうと生々しいけど、エロスっていうことね? これは、下品では全然ないですよね。

丸山 もちろんそうです。それに彼の他の作品もネットなどで見てみると、これが断然出来がいいんですよね。

本江 そういうことが多いんだよね、グランプリって。突発的にポーンと出るんだよ、どの作家も。ポートフォリオを見せられると、それだけ断然いいんだよね。不思議だよね

――財田作品は、最初から会場の中でも、目立っていましたよね。授賞決定へと絞り込む過程でも、審査員の皆さんの評価は一致していたと記憶しています。

本江  題名の《はこいり》はどういう意味かな? とまず思いました。

立島 こういうふうに中に入っている、というのと、箱入り娘とを掛けているのかな、と私は思いましたけど……。

本江 ああ、なるほどね。それがエロいんだろうな。

立島 女として箱から出ようとしている、みたいな。そういう男の目線みたいのがさっきの丸山さんの話につながるのかもしれませんね。

本江 この目玉のブルーがいいですよね。

丸山 それに、かわいくないんですよ、意外と。

本江 たしかに、美女ではないよね。

丸山 それがそそるんですよ。

本江 普通だからそそる! 奥が深いですね。

丸山 女の子のグラビアとかも素人の子を使ったりするんですよ。篠山紀信とかも昔やっていたんですけど、アラーキーとは逆な感じで、健全なエロスを一般の仕事の若い人たちを使って撮っているんですよね。そういうのと、感覚が近いかもしれない。それともう一つ、たとえばデビュー展の
グランプリは賞金30万円ですよね。だとしたら自分が30万円出して、買うかなっていう思いがあります。

本江 丸山さん、これなら買えます?

丸山 これは欲しいくらいですね。

――それは、一般の眼として見ると、ということでしょうか?

丸山 まあ、まったく一般の眼ではないんですが……。そういうことなしで、絵の良し悪しが審査されがちじゃないですか。そうすると、印象審査になってしまったり、そのときのトレンドとか流れとか空気感になってしまったりするので、どこかそこに一本、自分の中で最後のジャッジメント
として置こうと思いまして。

本江 自分でお金を出して買えるかというのは重要な視点ですよね。

丸山 実際、我々が買うわけではないんですが、そういうつもりで。

丸山 前回もそれを考えていたんですけど、このデビュー展はジャンルが広いのであまり自分が明るくないジャンルもあるわけですよ。でも、作家がプロになる時って、皆あからさまに、絵の横に立って自分の絵を説明したり、語ったりしながら売るわけじゃないですよね。だから、やっぱり見て、ぐっとくる、いい感じのものを選びたいと思って選びました。

本江 そういう視点で他にいいのはありました?

丸山 僕はこれくらいですかね。

本江 丸山さんやっぱり厳しいなあ(笑)。

立島 僕は彼の作品を2012年に東北芸術工科大学で見ているんですけど、確かその当時は画面の黒い部分にジェッソを何重にも塗ってペーパーを掛けて、漆みたいな質感を全面に出していたんです。でも、その絵肌はおもしろかったんですけどまだまだ不安定だったし、表現の方も同じように絞り込みがまだ甘い感じがした。もちろん当時から注目はしていたんですが、今回の作品を見て、技術的にも表現も随分成長したなと思いました。最初一瞬、彼の作品だとわからなかったくらいですよ。

本江 彼はまだ20代ですよね?

立島 ええ、とても一生懸命やっていたので、そのうち出てくるだろうなと思っていましたが、このタイミングなのは嬉しいですね。その時の学年は全体的にレベルが高かったんですよ。

本江 他にはどんな人がいました?

立島 今回の入選者の中では奨励賞の久保木桂子さんが財田さんより少し先輩かな。

本江 これも岩彩っぽいですね。墨に和紙ですか?

立島 そうです、墨に和紙ですね。彼女は確か福島出身でその海のイメージなんだと思います。3・11が描くきっかけになったようです。

本江  じゃあ、今回、準グランプリの土井沙織さんとあわせて、東北芸工大からは3人受賞者が出たんだね。3人とも日本画ですし。

立島  そういうことになりますね。大学でもなんでも、そういう元気のいい時期とか波ってありますよね。

丸山 なぜかわからないけど、今、日本画が、すごくよくて、しかも、東北芸工大と京都造形大から非常にいい作家が出てますよね。なぜなんでしょう?

立島 先生方が頑張ってますし、学生たちも先生の影響なのでしょうが、元気がいいように思います。

本江 日本画が?

立島 日本画もそうだし、総じて、絵画全体。山形(地方)は、東京に負けたくないっていう意識があるだろうし、先生方も比較的若くて第一線でやっている人たちが多いからでしょうかね。あとはうち(佐藤美術館)の奨学生を見ていても最近女性の方が元気で思い切った作品が多いでしょう、そんな中、財田さんのこの作品は繊細な部分と大胆な部分がミクスチャされていてバランスが良い。非常に魅力的ですよね。

本江 私もこのグランプリ作品は申し分ないと思いますね。

――準グランプリや他の作品についてはいかがでしたか?

本江 僕は準グランプリの木村まどかさんの作品は、繊細なんだけど、あまりにも儚い感じがしてちょっとインパクト弱いかなと感じたなあ。

立島 彼女のも何年か前に、京都造形芸術大で講評に行ったとき見ているんだけど、作風はぜんぜん違った。当時はマコトフジムラの作品みたいな心象表現でしたね。でも今回はとても繊細でしっかり描画している。でも間の取り方と構図がおもしろいと思いました。同じ準グランプリの土井沙織さんとは対照的かな。

――土井沙織さんの作品については? 財田、木村両作品とは明らかにテイストが異なりますよね。

丸山 土井さんの表現はちょっと雑なところが気になりますね。

本江 僕もそれはあります。

丸山 それでも、気に入ったのは、目が独特なところ。目がこういうふうに描ける人は本質的に普通じゃないところがあるから、この人の人間性に期待したい。ちょっと変わった人なのかなと(笑)。あとは、イージーにキャラクターをつくってそれを中心に展開するようなイラストの手法を使わずに、あんまりキャラクターにしすぎない方が、これは発展があるかなあ思いますね。

本江 私は、奨励賞の北川安希子さんの作品はとてもよく描けていると思ったんだけど、思ったほど皆さんから票が入らなかったですね。なぜなのかなあ、と素朴な疑問なんですが……。普通に、一生懸命にやっている感じが伝わってきて、私は好感を持ちましたね。

立島 でも、そういうことって大切ですよね。きちんと描けているということが。

本江 非常に清らかな作品でいいなと私は思いました。

丸山 それと前回の方が、グランプリを決めるのが難しかったような気がします。

本江 それは、いい作品が前回の方が多かったということだろうか?

立島 前回はこの賞がどうあるべきかという議論が最初にあったじゃないですか。今年は同じ審査員だから審査の方針を共有できていたというのもあるし、それが前回はなかった分、意見がばらけたっていう可能性もありますよね。あとは2回目ということでどういう作品が入選、受賞しているかという傾向を出品者が見るでしょう?

本江 公募展ってそういうものですよね。

丸山 でも、審査のとき、決して、傾向を見ているわけじゃないですけどね。

立島 それはそうです。自ずとそういうことになっていくんですよね。

本江 あとはやっぱり前回受賞した人は今回は意外と入らなかったですね。最近、どこの公募展でもそういう傾向あるんですよね、昔の、出展常連を歓迎する雰囲気と違って。

丸山 知っているから手を挙げるということは今はないですよね。逆に身内になると厳しくなる(笑)。

――前回との違いということで言えば、今回は、一次審査から本江さん、立島さんに関わっていただきました。何かお気づきになったことはありますか。

立島 まず、一次審査の写真審査は実画じゃない分ただでさえ難しいのに、写真をきちんと撮ってこない方が結構多かったのが残念ですね。もしかしたら実際に作品を見てみたらいいのかもしれないのに。でも、そういう姿勢も審査の対象になると思いますから我々にしっかりした情報を提供して欲しい。今回の奨励賞の悠さんは、切り絵だったのでポートフォリオの写真だけでは作品がわかりづらいという配慮で、自分の作品の見本を一部切り取って添付してきました。それが審査事務局の方で今後、良しとするかどうかは別として、出展者のやる気が伝わってくる。そういう出品者の姿勢が感じられると、書類審査も非常に気持ちよく行えますよね。

丸山 僕は、一次審査からでなくてもいいので、どこかの時点で作品のコメントがあるといいかなと思いました。

本江 題名もコメントですよね。そういえば、去年のグランプリの福田真規さんの《フーガ》という題名も、何だろうってこの対談で話題にあがりましたよね。たしかに、コメントやタイトルがないとわかりにくい絵も最近はあるかもしれないね。

丸山 このコンクールはずっと継続性がありますから、今後はだんだん普段からの付き合いで、話をしている中でその人の考えや表現したいものがわかってきて、コメントが必要じゃなくなってくる場合があると思います。ただ、初審査の場合は、これだけ幅広いとわからないんですよね。それに、単純に、こういう人たちって何を考えているか興味があるんですよね。

立島 二次審査のある程度のところまで残った人にはコメントを提出してもらうのもいいんじゃないですかね。

丸山 あとは、非常に重要なのが、受賞した人のその後も知りたいところですね。デビュー展は副賞に画廊での個展開催があるわけですし、メディアの責任として、きちんと追いかけてもらいたいです。

立島 今回2回目ですけど、5回目くらいまでやったら、一度、過去の受賞者作品展を開催してみては如何でしょうか。

――今後、第3回、第4回と回数を重ねていきながら、展覧会自体のレベルが上がっていくように運営していきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

 
【ミヤケマイ 選考評】
技術力、制作方法以前に作品としての魅力の有無が大前提今回グランプリを獲った財田翔悟さんは岩絵具、透明水彩などのマチエールを意欲的に使い分け、視覚効果の高い作品になっていたと思います。公募展には必ず規定のサイズがあるので、どの大きさを選ぶか、またその制限に阻まれ持ち前の良さが出せず苦戦する人も多い中、上手くその限界をタイトルにも組み込む事ができ、細部まで考えられているように見受けられました。作品を見たとき、良く描けているとか、この素材は何だろうとか考える前に、画面に表現されているものに興味を持つ事ができ、ある色気を感じられたのが良かったです。技術的に高いとか、凝った制作方法である、というのも重要ですが、それ以前に、作品に魅力があるということが当たり前ですが重要だと思いました。前述の作品とは趣きが違うのですが、岡村翔平さんも同じようにストレートに作家の感じていることや、想い、興味のようなものに、誠実なものは好き嫌いを超えて伝える力があります。
準グランプリの木村まどかさんは、思い切って余白をとって整理されたと思うのですが、色感を整理しすぎたことによって失ってしまったところがあり、その頃合いの難しさを感じました。また、個人的には悠さんのような作品は好きなのですが、もう少しパワーや迫力がこういった作品にはあるといいように思います。
笠井遥さんは余白を上手く使い、動きやディテールに目がいくように描けていると思いました。どうしても公募展に応募すると欲が出たり、未整理なまま詰め込んでしまったり、肩に力がはいってしまうことがあるようですが、上手くこなれた感が出ています。同じく勝俣喜一さん、西村一成さんも見ているのが楽しい作品でした。久保木桂子さん、佐々木ひろゆきさんも独特な作り方をしていて素材的な面白さがあります。同じように、工芸的な側面を持つ長登数久さんは、一見手法がわからないぐらい巧みに描かれていました。春太郎さんの消しゴムはんこ、宮木沙知子さんのなんだか解らないけど気になるものとか独自路線の作品も今後の発展を期待します。今回は前回からのリピーターもあり、その成長や変化を見る事が出来るのは嬉しくもあり、難しくもあり、色々勉強になりました。
(美術家)

 
【河嶋淳司 選考評】
アンドロイド的世界の人工美を内在するグランプリ作品
グランプリを受賞した、財田翔悟《はこいり》の、正方形の画面の押し込むように入れられた女性像は、明暗の対比と大胆なトリミングによる、視覚的インパクトの強い作品だ。漆のような黒い背景と髪の毛の繊細なマットな黒、ブラシを使ったような明るい肌色のぼかしが、限られた色数の中に変化とリズムを与えている。特に目を引くのは、手前に大きく張り出した、L字型に描かれた腕だが、これが明らかに造形の柱となって画面を支えている。と、同時に、その奥に続く丸い膝、そして、不思議な視線をこちらに送る女性の、一見弱々しい表情に、逆に意表をつく強さのようなものを与えている。それは、現代の若い女性の持つ、不安、エロス、エネルギーを感じさせながら、どこかアンドロイド的世界の構築を思わせる人工美を内在しているように感じた。
準グランプリの木村まどか《雨柳道》は、詩情さわやかな雰囲気を持つ日本画だ。画面の多くは余白のような白地であり、上の方に淡く描かれた柳の葉は、寒色系を基調としながらも、微妙な色と形の変化を施すことによって、どこか暖かみのあるものに仕上がっている。
土井沙織《フレンズ》は、力強く大ぶりな筆致で、動植物の生命賛歌を謳ったような作品だ。叩きつけるように置かれた色彩と、黒い線が印象的だ。こういう仕事では、筆の置きどころが難しいが、適度に描きなぐりの状態を残した仕上がりは、良いタイミングで筆が置かれたと思う。中央の二羽の鳥を中心に、四方に蛇や植物を配し、安定した構図を作り出している。
奨励賞、北川安希子《流転―桜Ⅲ》は、印象派風の画中に、墨画的要素を取り入れたものとして今後が楽しみだし、同じく墨画的表現の久保木桂子《実在の矛盾》は、内的な思考性から出発しながら、紙と墨色の滲みの抽象表現は、困難であるが大切な仕事と思われる。また、悠《戯れごと》の切り絵による表現は、白地に明るい色調で細かく切られた紙が、レースのようで美しく感じられた。このジャンルの新しい展開になればと思った。
(日本画家)

 
【齋正機 選考評】
プロとして生きていくために、
日々の“瑞々しい感覚”を
自身のスタイルで闊歩し続ける
小春日和の名古屋の朝だった。「こ~んなに荷物少ないの?」と妻は目を丸くした。審査と用事で宿泊なのに持ち物は財布ぐらい……驚かれて当然。理由がある、秋に個展で痛く感じた事だった。鑑賞者の感性は幅が広くて楽しげだ。〝知識ではなく人生に漂うような感性”を遊ぶように探している。(とりあえず頭でっかちじゃなく、絵を楽しんでみよう。)と審査の心持ちのため身軽にしてみたのである。
12月にしては暖かい東京、会場に入ると、一次審査を通過した約80点の作品が一斉に飾ってあった。審査前の全体を見渡す。少し暗めでモノトーンの作品が多い中、土井沙織さんの《フレンズ》が色鮮やかに微笑んできた。そして財田翔悟さんの《はこいり》がエネルギーを放っていた。
2次審査が始まる。とても面白い感性も多々あったけれど、作品完成度が低く感じてしまうと票を集めることはできない。約30点の入選作品を決めていくと、勝俣喜一さん《残像♯1》の光るようなセンス、宮木沙知子さん《感受》のあまり例がなかったデジタル的美しさ、前田龍一さん《存在する事》の念がこもったような強さ、長登数久さん《大樹奔流―星降る里》の大切なものをじっくり描いている誠実さに気付くことができた。
財田さんの《はこいり》はグランプリに最初からなりそうな雰囲気があった。
圧倒的な完成度だった。でも顔の表情がもう少し魅力的ならば……。それでも魅かれるのだから強い作品である。準グランプリの木村まどかさんの《雨柳道》は、美しく控えめだが、大胆に単純化されている事が想像力を引き出す。そして土井さんの《フレンズ》、印象が明るく楽しめる作品。いろいろな意味でミスタッチも多い気がするが、それもそれでいい。奨励賞の北川安希子さん《流転―桜Ⅲ》は感じたことを素直に描いていることが清々しい。スケッチ感があればもっと強くなった。久保木桂子さん《実在の矛盾》も普遍性を兼ね備えた高度な作品、明るい普遍性もみたい。悠さん《戯れごと》は切り絵という仕事に哲学的な美しさを組み込んでいた。小さいのが気になったけれど。
今、審査から一ヶ月以上が経ち、資料と共に思い出しながら文章を書いている。入選された31作品それぞれに個々の思い入れや力量を再び感じている。もうプロとして申し分ない人も多い。だからこそ、プロの画家として生活していくには、日々に流れる〝瑞々しい感覚.を自身のスタイルで闊歩できなければ長続きはしない。そんなことを自らにも思った。
(日本画家)